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地銀トップ横浜銀行からひも解く地方銀行の未来

玉崎優

1.はじめに

玉崎優

2回目のレポートですが、簡単な自己紹介をしたいと思います。現在ジーニアスでインターンをしている玉崎優です。
私は現在早稲田大学の商学部に在籍しており、4月から3年生になりました。1つ上の先輩方が就職活動を始めている姿を見て、自身の就職活動に向けて準備できることはないかと模索している真最中です。
そんな日々戦々恐々としている私ですが、就職したい業界は決まっています。金融業界です。そのなかでもとりわけ銀行業界へ進みたいと思っております。
しかし、まだ漠然と銀行を志望している私にとって、重大な問題が存在します。それは「銀行に就職したいと思っているが、実際に銀行がどのような業務をしているのかわからず、また地方銀行やメガバンク、更にはネット専業銀行といったプレイヤーの違いが理解できていない」ということです。
そこで銀行業界についての知識を少しでも身につけるべく、金融業界のリサーチ第2弾として、まずはタイトルのように地方銀行最大手の横浜銀行を分析することで、地方銀行の将来を紐解いていきたいと思います。

地銀分析のトピックス

2.そもそも地方銀行とは?

2-1.地方銀行とは何か?

まず、横浜銀行を紐解く前に、地方銀行と呼ばれるものはどのような条件を満たしていれば地方銀行と呼ばれるのか、また地方銀行とは国内にいくつあるのか調べました。
「地方銀行とは、各都道府県に本店を置き、各地方を中心に営業を展開している普通銀行のこと。資金量は全金融機関の1割程度。メガバンクのように大口取引は少なく、小口取引が主体で、取引対象は地元の中小企業や個人がメインとなる。中小企業に対し細やかに対応していることから、中小企業にとっては重要な資金調達先となっている。」(コトバンクより引用、参照)

以上が地方銀行の一般的な定義ですが、もう1つ大きな特徴を持っています。それは、地方銀行は必ず全国地方銀行協会(http://www.chiginkyo.or.jp/index.php)に属しているということです。
全国地方銀行協会は地域の取引先の経営改善、事業承継、新事業進出やアジア等の海外市場の開拓等の支援に力を入れるべく

① 地方銀行に求められる金融サービス向上
② 金融を巡る諸制度の研究、対応
③ 経営管理の強化、効率性向上

を目標に掲げている一般社団法人で、現在会長は常陽銀行の頭取、寺門一義氏が務めています。
この全国地方銀行協会に所属している地方銀行は64行であり、北は北海道銀行、南は沖縄銀行と、全国各地の地方銀行がこの協会に属しています。

2-2.第二地銀とは何か?

地方銀行について簡単な定義は分かりましたが、次に気になるのが第二地方銀行の存在です。地銀と第二地銀の違いとは何でしょうか?
第二地銀は、第二地方銀行協会(一般社団法人 http://www.dainichiginkyo.or.jp)に属している銀行で、歴史を辿ると、もともとは無尽会社であったが、次第に相互銀行、さらには普通銀行へと姿を変えていった企業をさします。全国に現在41行あり、業務自体は地方銀行とさほど変わりません。

2-3.地銀比較

次に地方銀行についてより掘り下げていくため、データを元に比較していきたいと思います。預金量を見てみると10兆円を超えているのが横浜銀行と千葉銀行だけですが、これはメガバンクの一角である三井住友銀行の85兆4,965億円と大きく差を付けられています。
預金量が多いということは、単純に貸し付けられる額が多いだけではなく、資金運用にも回すことができるので、それだけ利益拡大のチャンスを有しているということになります。

玉崎優また、単体経常利益ですが、どの行もさすがは銀行、安定して利益を計上しています。細部に目を向けてみると、横浜銀行や千葉銀行に比べ七十七銀行と西日本シティ銀行の経常利益が低いのがわかります。七十七銀行は従業員数および支店数が少なく規模の問題もあると思いますが、西日本シティ銀行は従業員数、支店数ともに遜色のないレベルの規模を有しています。なぜ西日本シティ銀行の経常利益が低いのかというと、1つにはまだ創立10年と若い銀行であること、2つ目には実質業務純益の減少及び信用コスト(倒産等による回収不能、もしくは回収期間の延長による期待損失)の増加があったことなどが原因に挙げられます。
さらに海外支店に着目してみますと、ほとんどの地方銀行は海外支店ではなく駐在員事務所が主であり、多くの拠点が上海、香港、シンガポールなどのアジア圏にあることがわかります。海外駐在員事務所の業務内容は貸金業務ではなく、国内法人の海外進出に伴う現地の経済情勢等の情報提供がメインとなっています。

3.横浜銀行について

3-1.横浜銀行の沿革

横浜銀行横浜銀行は1920年に横浜興信銀行として設立され、下記の経営理念のもと業務を行っています。
・信用秩序の支え役としての本来の役割を十分認識し、円滑な資金供給と適正な金融サービスの提供に努め、完璧な事務処理に徹し、”信頼される銀行”をめざします。
・それぞれの営業地盤において、地域に深く根ざした活動を展開し、それぞれの支店が”ベストバンク”をめざすとともに、地域に貢献し、地域と一体となって発展する”コミュニティ・バンク”をめざします。
・活力あふれる人材の開発、育成を積極的におこない、明るい、活気に満ちた行風を確立し、働きがいのある職場づくりをすすめるとともに、”地域の皆さまのお役に立つ銀行”をめざします。
規模は地方銀行最大で、地方銀行の雄といわれています。しかしながら頭取を旧大蔵省出身の寺澤辰麿氏が務めていることから、内部から頭取になるのは些か厳しいのかもしれません。

3-2.横浜銀行の収益基盤

横浜銀行の事業内容を確認します。有価証券報告書を見ると、収益のうち約80%が貸出金の利息でした。メガバンクのように証券取引等複雑な金融商売を行うのではなく、リテールバンクを基盤としていることが分かります。
業務のメインであるリテールを、個人と法人にわけて詳しく見ていきます。
個人の部ではやはり住宅ローンが最大の収益基盤となっています。しかし一般の人が住宅を購入する際にかける費用は、高額な場合でも1億円程度です。またフラット35など住宅ローン商品を世の中に溢れており、それ程利ザヤの取れる商品ではありません。銀行としては個人の部、特に住宅ローンは貸金ボリュームを維持するという点では貢献していますが、それほど利益を見込めるビジネスではないようです。
また、住宅ローンを貸し出す際に、必ず行員が一人ひとりの顧客に対応しなければならず、顧客が増えれば増えるほど、人件費等のコストが増加します。
横浜銀行の個人の貸出金は全貸出金の約50%をも占めており、住宅ローンが大半です。これはメガバンクの三井住友銀行が約20%しか占めていないことを考慮すると、かなり比率が高いと言えます。
なお、最近ではネット専業銀行、特に住信SBIネット銀行が非常に金利も安く魅力的な住宅ローン商品を販売し、シェアを伸ばしています。横浜銀行と異なり、ネットバンクは人件費コストが格段に安いために、同じ金利の商品を販売したとしても利幅が大きく異なります。横浜銀行のような地銀、且つ個人の住宅ローン商売が中心の銀行にとってこれは脅威といえます。

最後に法人の部を見ていきます。

法人の部での主な収益基盤はやはり融資です。貸出金の業種別の図を確認してみると、最大の顧客は不動産で、次いで製造業などのメーカーが上位を占めているのがわかります。融資先は大企業よりも個人を含む中小企業が中心です。これは地銀特有のもので、メガバンクと比較すると小口中心、それだけ地域に密着した業務を行っていると言えます。
(横浜銀行平成27年3月期 第3四半期決算短信参照 http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1211549

3-3.横浜銀行の現状

住信SBIネット銀行 住宅ローン取扱額推移

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現状の横浜銀行は地方銀行最大の雄だが、その地位は今後も安泰なのでしょうか?
まず個人の部の住宅ローンでは、ネットバンクの攻勢が非常に目立つようになってきています。代表例は住信SBIネット銀行などがあります。ネットバンクの強みは何と言っても一般的な銀行の住宅ローンに比べローコストな点でしょう。インターネット上で住宅ローンを申し込ませることにより、人や店舗を必要としないので、人件費や土地代を限りなく低くすることができます。また一般的な住宅ローンに比べ利子を低くすることによって、行員と対面でないことへの不安感をカバーしています。

また個人の部ではATMの取引手数料も銀行の大きな収益基盤ですが、ここにもライバルが存在します。それはセブン銀行です。セブン銀行は実店舗をもたず、他銀行の口座からお金を引き下ろす際の手数料で大きな利益を上げています。コンビニにATMがあることで、わざわざ銀行まで行く必要性が薄まってしまったのは、大きな痛手でしょう。

一方、法人の部では地銀故に神奈川県にしか地盤を持っていないということが成長のボトルネックとなります。神奈川県で強固な地盤を築く一方で、県外には商売がなく市場が限定されています。そのため昨年の横浜銀行の東日本銀行との統合は、当然の流れと言えます。東日本銀行と統合することで、更に商圏の大きな東京に進出し、事業範囲を拡大することが可能になりました。
しかしながら今後さらに銀行の統合合併は加速し、大きな「再編」の波が襲いかかろうとしています。

4.地銀はこれからどうなるか?

4-1.地銀再編は更に進む

今後地銀はどのようになっていくのでしょうか。
あえて誤解を恐れず言うと、近い将来地方銀行はその役割を終えると思います。
これは地方銀行を軽んじているわけではなく、地方銀行を取り巻く環境の変化に応じて地方銀行の役割も変わっていくというためです。

では具体的にはどのように地方銀行は変わっていくのでしょうか?
結論としては、地方銀行の数は着実に減っていくと考えます。ポイントは金融庁の方針、そして都道府県の行政機能の変化だと考えています。
現在金融庁が地方銀行の再編を目論んでいます。背景には競争激化で利ざや(借りた金額の金利よりも高い金利で貸し出した場合に得ることのできる利益)が落ち込み、このままでは立ち行かなくなってしまう地銀業界の実情があります。
金融庁はこの現状に対して、各地方銀行の立ち位置を評価した「金融機関の将来にわたる収益構造の分析について」という資料を先日地銀の各頭取宛に配布しました。この1枚の紙は森信親検査局長の肝いりで作られたことから通称<森ペーパー>と呼ばれています。原本は公開されていませんが、証券会社が下図のように独自に調査したものを発表しています。<森ペーパー>は縦軸に各地銀が基盤を置く地域の将来の市場規模の縮小度合いを、横軸に現状の収益性を取ったグラフに全国の地銀105行をプロットしています。

森ペーパー

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この資料を見ると、ビジネス基盤とする地域の生産年齢が高齢化して、収益性の低い銀行は生き残りが難しく、将来経営統合を視野に入れることをサジェスチョンしているようにも感じます。ただ一方では、地銀が基盤としている地域の主要貸出先である中小企業も、地域に限定して活動している会社もあれば、全国・世界へ展開している会社もあり、地域の生産年齢という単純な指数では地銀の将来性は判断できないのではないか?という疑問も湧きました。
このように、金融庁が地銀再編に向けて本腰をいれたことで、地方銀行は再編へと加速し、地銀の行数が減っていくものと思われます。しかしその再編の方向性は金融庁や地銀の意向だけではなく、もっと大きな社会や行政機能の変化が影響してくると考えます。

4-2.道州制との関係は?

それでは、どのような基準で再編が進められていくのでしょうか?
私はその答えが「道州制」にあると考えています。
地銀や第二地銀というリテールバンクの枠組みは都道府県を基本単位とした地域限定の金融機能です。都道府県という枠組み自体が変化した場合には、当然地域の考え方が変わり、これまで以上に大きな合従連携が行われることが想定されます。

再び横浜銀行に目を向けてみると、既に東日本銀行を吸収し、これまで20店舗程度だった東京都内にビジネスを拡大しています。今後は静岡県(清水銀行、スルガ銀行、静岡銀行)や愛知県(中京銀行、愛知銀行、名古屋銀行)など西の商圏にも進出し、東京、神奈川、静岡にまたがる東海道銀行が誕生する可能性も感じます。
仮に道州制が導入されなくても、今までは都道府県単位でしかなかった地方銀行がこのようにより大規模なリテールバンクへと変貌していくことは、もはや避けられないように感じます。

4-3.日本初のウェルズ・ファーゴやサンタンデール銀行は生まれるか?

また、地方銀行が今後再編を進めて規模を拡大していくと、メガバンクとの競争も激化していくことが予想されます。私は今回の地銀の調査を通じて様々なレポートなどを読みましたが、「地銀の合従連携が進み、最終的にはメガバンクに吸収されるシナリオ」が多い印象を持ちました。

しかしながら、地銀が買収を繰り返してリテールバンクで巨大化した事例がアメリカ、スペインにはあります。1つはアメリカのウェルズ・ファーゴです。同行はアメリカン・エクスプレスの創業者が創設した地銀でしたが、リテールバンク(個人預金)を中心に、中小企業融資を大規模に展開し、近年は不動産融資事業に注力することで事業を拡大し、総合金融グループに発展しています。

もう1つはスペイン最大の商業銀行、サンタンデール銀行です。同行は1857年設立、新生銀行の株主でもあります。ウェルズ・ファーゴ同様にリテールを中心とした商業銀行でしたが、合併を繰り返すことでスペイン最大の銀行へと上り詰めました。

ウェルズ・ファーゴやサンタンデール銀行が大規模化したのは現在ではなく、20-30年くらい前のため日本の地銀と並列に語ることはできません。また、地域の枠が徐々になくなり、ネットバンクやATM網で強烈な個性を持つ銀行が続々と誕生する中で、地銀が生き残っていくための1つの方法論が、日本のウェルズ・ファーゴやサンタンデール銀行を目指すことだと感じました。

○参考文献
上記文中以外の参考文献
週刊ダイヤモンド“過去最高益の裏で金融庁が目論む「地銀再編プロジェクト」の全貌”
http://diamond.jp/articles/-/53456
森ペーパー
http://livedoor.blogimg.jp/neverendingtrip-whatever/imgs/9/3/93bb2c32.jpg
ウェルズ・ファーゴHP
https://www.wellsfargo.com/
サンタンデール銀行HP
http://www.santander.com/

(分析者: 玉崎 優 レポート第1弾 「インターネット決済代行業者の比較分析-決済市場の未来とは?!」はこちら

金融市場転職トレンド

製造業のみならず金融業界でも茲許人材の流動化が進んでいます。
特に地方銀行やメガバンクの若手人材が飛躍的な成長を遂げているネットバンクやITと金融を融合したネット関連企業への好 待遇での転職が定番化しており今後もその傾向が続くと予測されます。

また、外資系銀行においても採用が活発化しており、内資から外資への転職事例も増えています。(ジーニアス 福田)

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玉崎優

著者情報:
玉崎優

1,994年千葉県生まれ。2013年に早稲田大学商学部に入学。専攻はデータを基にした統計的アプローチによる経営戦略研究。大学2年の6月に将来を見つめ直しジーニアスの門を叩く。その後インターンの傍らサッカーサークルの幹事長を務める。現在は金融・コンサルティング業界を主軸に就職活動中。

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