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承継支援こそ「顧客本位」で

日本企業の97%を占め、日本経済の根幹を担う中小企業の存続において、後継者難に基づく事業承継の問題は重要な課題だ。中小企業庁など政府の重点取り組み施策ともなっている。金融機関にとっても、取引先の事業承継に取り組むことは、その存在意義に照らして重点営業施策の一つとなってきている。
しかし、その支援にあたっての取り組み姿勢は本当に顧客本位になっているのだろうか。中小企業の大半を占めるファミリービジネスの経営者と話をすると、金融機関などの仕事ぶりには苦言を呈する方が極めて多い。
 銀行は税負担を軽くするためにローンをつけて自社株の価値引き下げを提案したり、証券会社は自社の投資商品を勧誘したりする。不動産会社は自社の不動産物件の紹介、M&A(合併・買収)の仲介会社は毎日のように営業の電話をかけてくる。
 銀行ですら、後継者がいないと見ると「それはM&Aで」ということになる。いずれの提案も視野が狭い。自社のソリューションに限定し、自社が手数料を得られる案件をいかに提案してその気にさせるか、ということに一生懸命になっているばかりだ。(日本経済新聞3月4日)

この記事の筆者は日本ファミリービジネスアドバイザー協会理事・小林博之氏である。M&Aを含む事業承継を銀行など専門事業者に持ち込む場合、その案件を引き受けてもらった場合、相手のメリットは何かを考えると、この記事に指摘された問題が前もって想定できる。
 事業承継のサポートといっても要はビジネスなのである。どこも収益モデルを組み立てたうえでサポートに入るのは当然なのだから、相手のメリットを受け入れられるかどうかを検討して相談を持ち込むべきだ。
 ただ、それ以上に重要なのは承継問題であたふたしなくてすむように、早い段階で後継者候補を固めておくことに尽きる。
たとえ前期高齢者に区分される65歳を過ぎていても、1週間をフルタイムで無理なく働けるうちは、およそ引退など考えもせず、考えたくもないという経営者が多い。「今の60代は昔の60代と違って若い!」と思う心情は理解できるが、この年齢になれば体力の衰えは否めない。
しかし経営者が年齢を重ねれば、おのずと事業承継の準備期間は短くなり、承継計画の策定・実行も、付け焼き刃のようになりかねない。社内外の状況を踏まえた最適なタイミングでの承継を実現できない。
中小企業庁の「経営者のために事業承継マニュアル」には「後継者の育成期間を踏まえると60歳ごろには事業承継の準備をスタートしたいところです」と提言している。現役年齢の延長を考える政府ですら60歳を区切りと考えているのだから、もっと若い時期に事業承継の準備に入ったほうが現実的だ。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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