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箱根の高級旅館が繰り出す「人手不足」解決の秘策

箱根で業界の常識を覆す取り組みをしている旅館がある。強羅にある高級旅館、「強羅花扇 円かの杜(まどかのもり)」だ。20の客室では部屋付きの露天風呂を楽しむことができ、宿泊価格は9万2000円からとなっている(大手オンライン旅行予約サイト)。箱根の入り口ともいえる箱根湯本から山間へ車を走らせること30分ほどの場所にある。
 宿泊客の評判が高い旅館だが、その裏側には従業員にとっても働きやすい仕組みがある。  円かの杜の最大の特徴は、従業員のシフトにある。通常の旅館やホテルは宿泊客からの予約があり、その予約数に応じて従業員のシフトを組んでいる。  
だが、円かの杜の発想はその真逆だ。先に従業員のシフトを決め、その日の従業員の出勤状況に合わせて客室の稼働数を変動させている。具体的には1カ月前までは最低限の客室のみの予約を開放し、従業員のシフトが決まってから、20室ある客室の本格的な販売を始める。
 「社員を獲得するためには労働環境を整え、(社員にとって)魅力的な会社にしないといけない。2017年ごろからしっかりと休みを取れるように制度を整えた」と、女将の松坂美智子氏は制度改革をした狙いを明かす。
(東洋経済オンライン 10月29日)

 従業員を確保できない以上、従業員数に合わせてサービス提供量を調整するのは現実的な対応策だ。機会損失といえばその通りだが、従業員不足を補うために過剰労働を強いた挙句に退職されたら、ますますサービス提供に支障が出て、サービスの質を低下させたうえで機会を放棄しなければならなくなる。
 この5月、政府が新型コロナウイルスの分類を5類に引き下げたことを契機に、外国人観光客が雪崩のように来日してオーバーツーリズムが顕在化した。しかし外食産業にも見られる傾向だが、コロナ禍でリストラされた従業員は元の業界になかなか戻ってこない。リーマンショックの数年後と同様に、よほど元の業界が好きでないと戻ってこないのである。
宿泊業をめぐる人手不足はさまざまに報道されているが、宿泊業界に向け人材紹介のダイブ(東京都新宿区)が今年5月に実施した調査では、全国のホテル・旅館の約9割が「人手不足を感じている」という。
労働集約型産業では、供給力は人手に依拠せざるを得ない。デジタル化による業務の効率化にも限界がある。円かの杜の取り組みは参考にしたい。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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