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採用撤回訴訟 歓迎の宴暗転、失った内定

宴席における酒の失敗は、ときに人生をも狂わせる。商社への転職が決まっていた30代の男性は、入社直前の歓迎会で酔っ払った際の言動を理由に内定を取り消された。「泥酔状態での発言は理由にならない」と処分の無効を訴えた裁判。垣間見えたのは取り返せないミスの重さであり、人を見極める採用の難しさだった。
(中略)
 人材サービス大手のエン・ジャパンが運営するリファレンスチェックサービス「ASHIATO(アシアト)」が22年、人事担当者400人に行った調査では、78%が活躍できる人材を面接で見極めることに難しさを感じていた。採用のミスマッチが起きる原因は、36が「面接で相互理解ができていない」ことを挙げていた。
(中略) 
 裁判所は、飲酒は一連の失態を正当化する理由にはならないと判断した。判決理由は飲酒の影響について「気が大きくなっていたことは否定できない」としつつ、「営業職では会食の場でもコミュニケーション能力が求められ、飲み会でこのような言動に及んでいたこと自体問題だ」と指摘。男性は控訴したが東京高裁も結論を維持し、判決は確定した。
(日本経済新聞 10月8日)

 中途採用の場合、面接では人物像を見極められないという理由で、飲み会に招待して気を緩ませて見極めることは昭和の時代から行なわれていた。たんに親睦目的に招待されたのではなく、審査されているという自覚をもつべきなのだが、酒の力には抗えないのだろうか。
 当然、会社側の出席者たちは素顔を暴き出そうと、それぞれが内輪話をしながら構えをほどいて、候補者を乗せてくるものだ。乗せられて失態を犯せばアウトである。当然だ。  あるいは失態に至らなくとも、さまざまにチェックされる。
 三枝匡氏(ミスミグループCEO)と伊丹敬之氏(東京理科大学教授)が対談した『「日本の経営」を創る』(注・2人の肩書は2008年の出版当時)で、三枝氏はミスミグループで「採用可」と判定された部門長候補者に対して、最終ステップとして飲み会での言動が審査されることを述べている。
 飲み会は会社近くの寿司店で開かれ、会社側の出席者は、三枝氏と役員・部門長クラスの5~6人という。
「これが面接とは思えないワイガヤの飲み会で、そこに候補者がいることを忘れたように、役員らがお互いの失敗談などを暴露し合っているわけです。『オレ、あのときに社長に怒鳴られちゃってさ』『ときどき社長の言っている意味がわからないんだよね……』などと飲んで騒いでいるのを、私はニヤニヤして黙って聞いているのですが、問題はその候補がその会話に溶け込んでいけるかどうかなんです。
 本人はただ食事に呼ばれたと思っているのですが、そこでの会話で候補者の経験や対人スキルはほとんどバレてしまいます(笑)」(同書)
 内定の段階で食事会に呼ばれたら、正体を見極められる場に呼ばれたと受け止めたい。ポジティブな会話への関わり方、ネガティブな会話への関わり方、それぞれのコツも仕込んでおいたほうがよい。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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