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なぜ?同業他社に転職ダメ 壁になるのは「競業避止義務」

「退職時、同業他社に転職しないという誓約書にサインしてしまった…」。福岡市の50代男性から、こんな投稿が西日本新聞「あなたの特命取材班」に寄せられた。調べてみると、憲法が職業選択の自由を保障する一方で、会社は内部情報の流出を防ぐため、社員に競合企業への転職を禁じる「競業避止(ひし)義務」を課すことができるという。雇用の流動化が進む中、義務はどこまで認められるのだろうか。
(中略) 
 競業避止義務は、労働契約法の中で示されている考え方。国は会社が社員に義務を課す際、有効となるポイントを挙げている。  
(1)対象となる従業員や退職者は、企業情報に触れる地位や立場にあるか。  
(2)会社が守りたい情報は、取引先や顧客の情報、独自の研究内容や製造技術など、企業秘密として取り扱うのが適当なものか。  
(3)社員が退職後、同業種に就く際の地理的な制限や、就業を禁じる期間の長さは妥当か。  (4)会社は何らかの代償措置を取っているか。  
(1)~(4)は1970年の判例をはじめ、その後の司法判断も参考にしてまとめた考え方。ただ、実際の訴訟では、義務の設定が有効かどうか判断が割れている。
(西日本新聞 8月7日)

企業が即戦力の人材を採用する場合、同業他社からのスカウトが現実的な手段である。しかし競業避止という厄介な問題を回避するために、いったん直接は競業していない関連会社で採用し、半年や1年後に本体に転籍させるという段取りを組む例もあった。
あるいは退職後に「今後の仕事は未定」として空白期間を置いて、その後に競業先に入社する例もあったが、何ともまどろっこしい。
競業避止について厚生労働省は、「基本的な方向性」として次のような見解を示している。(1)競業の制限が合理的範囲を超えて職業選択の自由を不当に拘束する場合には、公序 
良俗に反して無効となる。合理的範囲内か否かは、制限する期間、場所的な範囲及び職種の範囲、代償の有無等について、企業の利益と退職者の不利益等から判断される。
(2) 競業活動をある期間制限したとしても、直ちに職業選択の自由を不当に拘束するものではなく、同業他社へ就職した場合に退職金の額を半額とする退職金規程も、退職金が就労報償的な性格を合わせ持っていることからすれば、合理性が無いとはいえないとした事例がある。
 競業先への転職でトラブルを回避するためには、転職先が判例に照らし合わせてガー
ドする方法がよいだろう。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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