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後継者不足の打開策、翻弄される経営者も

民間調査会社の帝国データバンクによると、全国・全業種約27万社を対象とした2022年調査で、後継者がいないと答えた企業は57・2%と半数を超えたものの、調査を開始した11年以降、初めて60%を割った。他方、企業代表者の就任経緯を見ると、22年は買収や出向を中心にした「M&Aほか」の割合が20・3%と調査開始以降で初めて2割を超えた。    
レコフによると、日本企業が当事者のM&A件数はリーマン・ショックの影響が沈静化した12年から増加傾向にあり、同年の1848件に対し、22年は過去最多の4304件を記録した。レコフの沢田氏は、全体の件数を押し上げている要因として、後継者不在の局面をM&Aで打開しようとする動きが一定水準あるとみている。 
M&Aは企業の生き残りに効果を上げる一方、買収される企業にはリスクや「見えない壁」も立ちはだかる。M&A業務に関わった東海地方のある地銀の元役員は「『自分の代で会社を潰した』と親族や取引先から批判されるのを嫌う老舗の企業もある」と、買収される企業側の心理を明かす。M&Aの理解を得るため「新会社に旧屋号を残すといった配慮もしている」という。
(毎日新聞 5月21日)

M&Aによって後継社長が決まっても、じつは、それ以降に難題が待ち構えている。元社長は会長に就任するケースが多いが、あくまで引き継ぎのための会長職で、中長期の成長を率いる会長職ではない。
ところが本人はその現実を理解していても、なかなか意識までリセットできず、たとえば新社長が策定した成長戦略に対して「俺はこの方法でやってきた!」と自分の経験則を押し付けて、新たな戦略を頭ごなしに否定したがる人がいる。
新たな戦略を実行されたら、自分の経営手法を否定されたような気分になってしまうのである。
一般に中小企業では社長にノウハウと人脈などが集中し、役員と社員にとってブラックボックスになっていることが多い。M&A後もブラックボックスを解消するために会長にとどまってもらう場合もあるのだが、その人事がマイナスに作用してしまうのだ。
成長よりも自分のメンツを優先させてしまうのだが、新体制の足が引っ張られないようにする方策はあるのか。ひとつは新体制が発足したら口をはさまないことをM&A実行の前に合意させることだが、それだけは不十分だ。元社長のメンツを立てながらノウハウと人脈を継承してもらう懐柔策も必要である。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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