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岸田首相、三位一体労働市場改革の指針を公表

5月16日、岸田文雄首相は第18回新しい資本主義実現会議を開催し、三位一体労働市場改革の指針(案)について次のように述べた。
「三位一体の労働市場改革では、構造的な賃上げを通じ、同じ職種であるにも関わらず、日本企業と外国企業の間に存在する賃金格差を、国ごとの経済事情の差を勘案しつつ、縮小することをめざす」
 改革の第1の柱は、リスキリングによる能力向上支援。個人への直接支援を拡充し、教育訓練給付については、高い賃金・就業可能性の向上が期待される分野について、補助率や補助上限の拡充を検討する。在職者によるリスキリングを強化するため、雇用調整助成金については、例えば30日を超える雇用調整となる場合、教育訓練を求めることを原則とする。
 第2の柱は、職務給、ジョブ型人事の導入。人材の配置・評価方法、リスキリングの方法、賃金制度などについて、中小・小規模企業の事例も含めて、年内に事例集を作成し、個々の企業の実態に応じた導入の参考となるようにする
 第3の柱は、労働移動の円滑化。求職・求人に関して官民が有する基礎的情報を集約、共有して、キャリアアップや転職の相談に応じられる体制を整備する。
(首相官邸ホームページ発表を要約 5月16日)

 三位一体の労働市場改革を推進する背景は、内閣官房の新しい資本主義実現本部事務局が新しい資本主義実現に提出してきた資料に書かれている。
2022年11月に提出した資料は「労働移動の円滑度が低い市場の方が、合理的でない賃金プレミアム(労働者のスキルや教育などの 根拠によらない賃金決定の要因)の占める影響が大きい」「労働移動の円滑度が高い市場の方が、労働者のスキルや教育などが賃金に反映されやすく、賃金格差が発生しにくい」と説明したうえで、労働移動が国力に影響をおよぼすことを強調した。
「企業間の労働移動が円滑である国ほど、国の労働生産性(労働時間当たり実質GDP)が高く、生涯における賃金上昇率が高く、失業率が低い」
23年5月に提出した資料ではリスキリングにスポットを当てている。
「企業から与えられた仕事を頑張るのが従業員であり、将来に向けたリスキリ ングが生きるかどうかは人事異動次第」「構造的な賃上げの基礎となる従業員の意思による自律的な キャリア形成が行われにくいシステム」とメンバーシップ型雇用を批判。そのうえで「スキルギャップの克服に向けて、従業員が上司と相談をしつつ、自ら職務やリスキリングの内容を選択していく制度に移行する」とシナリオを提示した。
 どれも数年来、官民で議論されてきた課題である。労働移動を推進するにはリスクキングだけではなく、ポータブルスキルを修得させる施策も必要だ。リスキリングを実行しなくとも異業種で活躍できる人は、ポータブルスキルを身につけている。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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