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埼玉経済ウオッチ 春闘、中小は賃上げ困難も

大手主要企業の令和5年春闘(春季労使交渉)の回答が出ている。早々に大幅な年収引き上げを発表する企業も見受けられ、食品やエネルギー価格などの物価上昇に加え、優秀な人材の獲得・定着のためにも賃上げを表明する企業が多い。ただし、賃上げには原資が必要となり、全ての企業が賃上げに追随できるとはかぎらない。
国内の働き手の多くが中小企業に勤務するが、そもそも労働組合を持たない中小企業が多く、労使交渉の場が少ないのが現実だ。また、「賃上げができるのは大手企業だけ。中小企業にはベースアップは難しい」(県内経営者)との声も聞かれ、基本給に係る賃金の底上げは将来にわたって負担が大きく、経営者の間でも賃上げの方法や規模に対応差が出ている。
東京商工リサーチが2月に実施した賃上げに関するアンケートでは、今春闘で賃上げを実施予定の企業が全国で80・6%に上ることがわかった。4年度の実施企業は82・5%だったため、2年連続で8割台となり、賃上げ実施企業の割合はコロナ前に戻っている。(産経新聞 3月27日)

 中小企業のなかには賃上げ余力に乏しいのに、無理に賃上げに踏み切る企業が多いのではないだろうか。
日本商工会議所の調査によると「賃上げを実施予定」と回答した企業は58.2%で、昨年比で12.4ポイント上昇した。そのうち業績改善をともなわない「防衛的な賃上げ」は62.2%を占めたが、コスト増による業況悪化に向かうことが懸念材料だ。人件費倒産を引き起こしかねない。
 当然、「防衛的な賃上げ」を実施する企業は資金繰りのシミュレーションを踏まえて判断したのだろうが、さらなる原材料費の高騰などコストアップの加速も考えられる。しかし、それでも賃上げを優先したのだ。
 賃上げをしなければ人手不足倒産のリスクが控えている。賃上げしてもリスク、賃上げしなくてもリスク。過酷な新年度を迎えそうだ。
一方、この調査で、賃上げを見送る予定(引下げる予定)としている理由は多い順に「自社の業績低迷、手元資金の不足」(68.4%)、「人件費増や原材料価格上昇等の負担増」(50.0%)、 「景気の先行き見通しが不透明であるため」(39.5%)。「賃上げより雇用維持を優先するため」(38.2%)だった。
 世情がどうであれ、賃上げどころではないのだろう。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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