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社外取締役、兼務可能は何社まで

複数の企業の取締役を兼務する人は各社の職務に十分な時間を充てられるのか。米シリコンバレーの大手投資ファンドの幹部は昨年、投資家のこの疑念がいかに強いかを思い知った。
米シルバーレイクの共同最高経営責任者(CEO)イーゴン・ダーバン氏は取締役を務めていた米ツイッターが2022年5月に開いた株主総会で、余りにも多くの企業の取締役に就いているとして再任を否決された。
この一件は、取締役の過剰兼務が企業にとって大きな問題になっていることを物語る。だが何社なら多過ぎるかは一概にはいえない。
英国では企業統治指針で、企業のトップが社外取締役を務められるのはFTSE100種総合株価指数への採用企業なら1社だけと定める。取締役会議長やFTSE100以外の企業の社外取締役には制限がないが「当該企業での職責を果たすため、十分な時間を充てなければならない」とくぎを刺す。
議決権行使助言会社の米ISSは米企業の株主に対し、5社超の公開企業の取締役を兼務する人や、自社以外に2社超の公開企業で取締役を兼ねる公開企業のCEOの選任に関し、おおむね反対または保留するよう勧めている。(日本経済新聞 1月9日)

東京証券取引所は「コーポレートガバナンス・コード」に、独立社外取締役の役割・責務について①経営の方針や経営改善について会社の持続的な成長を促し、中長期的な企業価値の向上を図るとの観点からの助言を行う②経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行う③会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督する④経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させる――と規定している。
兼務の社数に言及していないのは、根拠を明確に示させないからだろう。社数に言及したのは日本取締役協会で、2014 年に「上場会社の独立取締役及び独立監査役は、自らの会社以外に 3 社を超えて他の上場会社の取締役又は監査役を兼任してはならない」と提言している。
金融庁が2022年5月に発表した上場企業対象のインタビュー調査で、取締役議長は「ガバナンスにおいて、取締役会議長が社外取締役であることは非常に重要であり、これが適切に機能しているかが問われる。議長は、 経営会議の議事録だけ見ても問題は理解できないのであり、時間的コミットメントが必要。兼務先の多い『行列のできる社外取締役』 等では役割を果たせない」と答えた。
兼務社数の上限を定めたほうがよいだろう。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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