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幹部育成、MBAより「出向起業」 社員のままで社長に

関西電力など大企業で「出向起業」の活用が広がっている。新規事業に挑戦したい社員が、籍を残したままスタートアップを設立できる仕組みだ。経営者として資金調達やビジネスモデル構築など厳しい実務にあたり、仮に失敗しても古巣に戻って経験を生かせる。エリート育成の定番、経営学修士号(MBA)留学にはない「実戦」経験で幹部候補を育てる。
「学生のビジネスコンテストじゃないんだぞ!」。関西電力の栗山裕和さん(35)は投資家の叱責に背筋が凍った。2019年、出向起業の仕組みを活用してポンデテック(大阪市)を創業したが、事業作りは二転三転。買い物代行や銅線のリサイクルなど半年余りで4つの事業を潰した。「投資家との会議が近づくとストレスで熱が出ました」と苦笑いする。
(中略)
 大企業の社員は待遇面で安定しており、退職して起業することには及び腰になりがちだ。出向起業の場合は、仮に失敗しても職場復帰できる。大企業側は新会社が成功すれば優先的に買収することができる。(日本経済新聞 8月17日)

出向起業は社内ベンチャーの立ち上げに類似しているが、むしろ経営人材の育成プログラムとして有効である。成果を上げた社員を幹部に抜擢する人事なら社内の納得を得られるが、この段取りは大企業だけでなく、中小企業の後継経営者の人事にも有効だ。
後継経営者の多くは元経営者の息子であるケースが多いが、M&Aコンサルタントによると「自分が社員を雇って育ててきたのではなく、父親が築いた土台にいきなり立つことは、創業よりも難しいともいえる。後継者として社業を発展させるには、創業者よりも高い能力が求められる」という。
経営幹部と社員を掌握するには「息子だから社長に就任させる」という理由では説得力に乏しい。「この息子なら部下として仕えるに値する」と思われるだけの説得力が必要である。それは実績に尽きる。
かりに息子が大手企業の幹部に昇進した実績を持っていても、大手企業の経営資源を活用した結果であり、経営資源の劣る中小企業では起業家の資質が求められることから、同じような成果を出せるとは限らない。
そこで子会社の経営、新規事業の立ち上げ、不振部門の担当などで実績を積ませるケースが増えている。実績を積む過程で中小企業を率いる能力が磨かれ、社内の人身を掌握する器も磨かれるのである。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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