Talk Genius

人と会社と組織を考えるニュースマガジン

看護師免許はあるけれど 机上の70万人「戻りたくない」

かつてない高齢化社会の医療を支えていくはずの看護師をめぐる神話が新型コロナウイルスによって崩れた。免許を持ちながら現場を離れている約70万人の「潜在看護師」の多くは所在不明で連絡すら取れず、病院勤務に復帰したのは約200人。中長期の看護師不足を解消する切り札とみなしてきた政府の筋書きは甘すぎたのではないか。
「病院勤務のようなつらさはなく、効率よく稼げている」。新型コロナウイルスのワクチン接種業務で十数年ぶりに注射器を手にした看護師、山本直子さん(仮名、40代)は、このアルバイトに満足している。時給3500円は正規雇用の2倍近い好条件。古巣の病院での過酷な勤務シフトが脳裏に浮かび、「もう戻ることはないだろう」との思いを強くした。
 コロナ下の20年4月以降、日本看護協会(日看協)の働きかけで約2万7000人の潜在看護師が復帰したが、うち1万9000人近くは山本さんのようなワクチン接種業務だ。コロナ医療の最前線である病院勤務は224人にとどまる。看護師不足はコロナ対の補助金を受けても稼働しない「幽霊病床」の一員にもなった。
(日本経済新聞 7月18日)

 日本看護協会は看護職の処遇改善に継続的に取り組んでいる。看護職の収入は厳しい職務内容に見合っていないというのが日看協の見解で、キャリアを積み重ねても収入が増えないことを問題視している。
 看護師の賃金を労働者全体と比較すると、20代では労働者全体を上回っているが、3~4万円の夜勤手当が含まれることが賃金水準を押し上げている。ところが30歳代で労働者全体と逆転し、看護職の就業者が最も多い40歳代の前半では、労働者全体よりも月額で7.4万円低い。その後も差が開いていく傾向にある。
 この実態を踏まえて、日看協は2019年に「看護職のキャリアと連動した賃金モデル~多様な働き方とやりがいを支える評価・処遇~」を発行して周知に努めてきた。さらに、この6月には、職務の遂行能力や担っている役割、専門性による貢献に応じて賃金を決定する「複線型人事制度」と「等級制度」を組み合わせた賃金体系を発表した。
「複線型人事制度」とは看護職のタイプを役割や組織内のキャリアなどの視点から、専門職群(非管理職の一般職員)、管理・監督職群(主任以上の看護管理者)、高度専門職群(専門看護師、認定看護師、特定行為研修修了看護師の資格や高度な能力を生かして組織に貢献している職員)の3つの職群(キャリアのコース)に区分する制度。
さらに3つの職群を、能力や職務・役割の大きさによって、複数の等級(ステップ)に分ける「等級制度」を組み合わせ、等級と連動させて賃金を決定する。
 ただ、潜在看護師の復職を阻んでいるのは賃金だけではない。激務をどう是正するかが問われている。医師の働き方改革の一環で、医師の業務の一部を看護職に移行させる流れになるが、看護職の就業実態がさらに激務にならないのだろうか。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

この著者の記事を全て見る

Talk Geniusとは-

ヘッドハンティング会社のジーニアスが提供する人と会社と組織を考えるニュースマガジンです。