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従業員からの訴訟に備え、「パワハラ保険」加入急拡大…契約数は4年前の倍

中小企業で、職場のパワーハラスメントを巡る訴訟リスクに備えた保険加入が急拡大している。改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)で今年4月から中小企業に対策が義務づけられ、経営課題としてパワハラ対応の重要性が増していることが背景にある。
 加入が増えているのは、損保会社が販売する「雇用慣行賠償責任保険」。企業がパワハラやセクハラ行為があったとして従業員から訴訟を起こされた場合、敗訴した際の損害賠償や慰謝料、訴訟費用などを補償するものだ。保険料は企業規模に応じ、年間5万円から数十万円程度という。東京海上日動火災保険と損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の大手損保4社によると、今年3月末時点の契約件数の合計は4年前に比べて倍増し、約9万件だった。
 パワハラ防止法は2020年6月に施行され、当初は大企業のみが義務化の対象で、中小企業は努力義務とされていた。今年4月以降、中小企業も違反した場合は厚生労働省の指導や勧告の対象となった。対応が不十分な場合に従業員から訴えられる可能性も高まっている。 (読売新聞オンライン 5月30日)

 パワハラ防止のマニュアル作成や啓発研修などを講じても、パワハラはいっこうに収まらない。いくらモラルを説いてもパワハラに至る心の制御は不可能だろう。
 リスクの撲滅を見込めない限り、おのずと保険商品のニーズは高まっていく。パワハラ対応保険はどんな趣旨で設計されているのだろうか。
東京海上日動が販売する「超Tプロテクション」という保険商品には、基本補償のほかに雇用関連賠償責任補償特約条項が付いている。この条項には次のように書かれている。
<パワハラ・セクハラ・マタハラ行為に対する管理責任や不当解雇等により、企業、役員の方等が法律上の損害賠償責任を負担した場合または企業、役員の方等に対して地位確認等の請求もしくは賃金等の支払請求がなされた場合に保険金をお支払いします>
 職能団体や業界団体も保険商品を取り扱っている。
全国社会保険労務士会連合会が運用する使用者賠償責任保険制度は、パワハラ・セクハラ等の侵害行為に伴う法律上の賠償責任を最大1,000万円まで補償。公益社団法人全国老人保健施設協会が運用するハラスメント賠償責任保険制度(雇用慣行賠償責任保険)は「いやがらせ」に3300 万円を補償。
雇用側はパワハラの訴えに対して「認識の相違」などと事実からの逃避に走らずにすむだろうが、一方で「保険に入っているから」とパワハラ撲滅策を緩めてしまいかねない。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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