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カリスマ経営者を直撃する「後継者問題」の深刻さ

どんなに能力のある経営者とて、体はひとつしかなく、その命には限りがある。「俺のようにできる奴はいないのか」。そう繰り返しながら老いてゆくうちに、いつしか部下たちの心は離れてしまうのだ。
 世界一のモーターメーカー・日本電産を率いる永守重信(77歳)は、いま生涯最大の、そして最後の壁に直面している。
「今の株価は耐えられない水準だ。私が任命責任を果たす」
「バトンを渡すのが早すぎた」
(中略)
 この10年、永守は自らの眼鏡にかなう後継者を探し続けてきた。しかし要求水準を満たす者は、いまだ現れないようだ。
「’13年にカルソニックカンセイから招いた呉文精さん、’14年にシャープから来た片山幹雄さん、一昨年まで社長を務めた吉本浩之さん、そして関さん。どの人も最初は『同じ歳のころの俺より優秀だ』と言って取り立てたが、2年も経つと『やっぱり失敗だった』と経営権を取り上げてしまう。この3年は米中貿易戦争にコロナと逆風だらけで、永守さんが自分でやっても同じだったと思うけれど」(日本電産幹部OB)(現代ビジネス 5月12日)

カリスマ創業社長が後継者にバトンタッチするには、ひとたび社長交代によって退任したら、再登板しないと決断する以外にない。新社長の経営手腕に満足できなくとも、あるいは社長交代後の業績が低迷しても、再登板しないことだ。
再登板すれば元の木阿弥で、一向に世代交代が進まない。世代交代を進めるという社内の動きも振り出しに戻ってしまい、多くの社員は不安をかかえながら様子見を強いられる。
再登板は権力欲ではなく、創業者としての責任の現われである。株主への責任、社員への責任、取引先への責任。引き際の美学にはそぐわないが、当人にとっては、自分が人生を賭けてつくり上げた会社の低迷はあってはならないのだ。
だから、たとえ世間から老害と揶揄されても取り合うつもりなどない。それは外野席の評論にすぎないと。実際、実情を知らない有識者などは一般論を述べ、それが拡散されて老害批判につながっているのだ。
当然、生身の人間ゆえに加齢による衰えに直面することも百も承知だ。それでも再登板するだけのエネルギーは尋常ではない。カリスマ創業者は過去に多くの経営判断を下してきたが、後任社長への承継は最後の経営判断である。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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