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外国人材に日本がフラれる日

 国内産業の担い手として不可欠な外国人材の「日本離れ」が懸念されている。今は人気の移住先だが、アジア各国が順調に経済成長すれば日本で働く魅力は薄れる。人口減が迫る中国との人材争奪競争も予想される。移民受け入れを否定し、途上国支援名目で人材を受け入れる技能実習制度は人権面の批判も根強い。選ばれる国であり続けるには心もとない。
(中略)
 杉田弁護士によると、近年注目される「国際移動転換理論」は経済成長と移民動向の関係は①開発が進むにつれ国外への移民が増える②さらに開発が進むと他の新興国への移住の魅力が薄れ、流出数が減少する③先進国への移住も魅力が薄れ、国外から流入する移民の数が流出数を上回る――というプロセスがあると考える。
(日本経済新聞 8月17日)

 何年も前から外国人労働者の母国で経済発展が進めば、日本に働きに出る動機が薄れてしまい、その雇用が人手不足対策になり得ないことは見通されていた。相手国の事情が変化するのだが、“日本本位”に考えざるを得ないほど逼迫していたのである。
 だが、日本で就業する動機の低下がいよいよ現実味を帯びてきたことにコロナ禍が加わって、外国人労働者雇用の気運が下がった様子だ。
 折からのDX(デジタルトランスフォーメーション)の波を受けて、人手不足解消策として、業務のデジタル化に注力する流れが加速している。成果が出るかどうかはともかく、もはや外国人労働者の確保はアテにできないと考えられている。政府は外国人労働者の大量入国を見据えて「地域共生社会」という社会像を提示したが、この概念もすっかり風化してしまった。
 一方、外国人技能実習制度は、海外では相変わらず人権問題として見られている。米国国務省「2021年人身取引報告書」は次のように指摘している。
<外国を拠点とした人身取引犯や国内の人身取引犯は、外国人労働者を搾取するために政府が運営する技能実習制度を引き続き悪用した。技能実習制度の下での日本国内の移住労働者の強制労働が依然として報告されたにもかかわらず、またもや当局は、技能実習制度における人身取引事案や被害者を積極的には1件も認知しなかった>
そもそも技能実習制度が「人身取引報告書」の調査対象になっていること自体、由々しき問題である。行政もこの現状を踏まえて、不法行為はもちろんグレーゾーンにも一段と強力に踏み込んでほしい。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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