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内部通報 処分なら懲戒――政府が指針、来年施行

政府は企業の不正を通報した人の保護を強化する具体策を記した指針をまとめた。通報した人に降格や減給といった処分をした役員や社員を懲戒処分にするよう企業に求める。2020年成立の改正公益通報者保護法に基づき、国が違反企業に指導・勧告し、従わなければ企業名を公表する。
改正法を踏まえ、指針で内部通報に関する運用策を規定する。消費者庁が8月中にも告示する。
最近は内部告発をきっかけに不祥事が明らかになる例もある。22年6月までの法施行に備え、企業に通報者を守る体制整備を促し、自浄能力を発揮しやすくなる。通報者を特定しようとする行為や、内部調査による必要最低限の範囲を超えた社内での情報共有も認めない。
改正法で従業員が300人超の企業に通報の窓口の設置を義務付けた。担当者に情報の守秘義務も課し、違反すれば刑事罰として30万円以下の罰金を課す。
米国には証券取引委員会(SEC)が法令違反の通報者に報奨金を支払う制度がある。日本は内部通報の体制が不十分との指摘が根強い。過去にはオリンパスで上司の行為を通報した人物が望まない部署に配置転換された問題が起きた。
(日本経済新聞 8月13日)

 
 ムラ社会では身内の常識が最優先されるが、企業も行政機関もムラ社会である。社会の常識よりも組織の常識が優先され、双方の常識が対立した場合、組織の常識が正義となる。社会の常識を選択すると背信行為と見做されかねない。
 まして外部への告発は御法度だ。告発者の特定が「犯人捜し」といわれるように、通報者は組織の足を引っ張る「犯人」で裏切り者と扱われて、摘発の対象になる。公益情報通報者保護法が施行されて以降も、この風潮は改まっていない。本来、勇気をもって勤務先の健全化に寄与したのだから表彰の対象にしてもよいだろうが、そうはいかない。恥部にはフタをするのがムラの常套手段である。
 摘発といっても経営陣から糾弾されることはあまりない。定期人事異動に合わせて地方や関連会社に飛ばしてしまうのが常套手段だ。等級の降格などはないが、事実上の左遷である。かりに異動に抗議したところで「適材適所」を理由に一蹴されてしまう。そして報復人事を知った社員は不正行為を把握しても黙認する。黙認しなければ明日は我が身とあって、まさしく「沈黙は金」なのである。
改正公益通報者保護法がどこまで有効に機能するのだろうか。報復人事を行なった役員・社員の懲戒処分が先例として報道されば、抑止効果を生むだろうが、同時に新たな抜け道も模索されるに違いない。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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