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SOMPO傘下、介護職ら1000人の年収100万円引き上げ

SOMPOホールディングスは、傘下にある介護事業会社の中核職員約1000人を対象として、2022年度に年収ベースで100万円程度引き上げる方針を固めた。高齢化で高まる介護ニーズに対して深刻化する人手不足に対応する。賃上げする中核職員は、傘下のSOMPOケアが展開する介護付き住宅や老人ホーム、訪問介護で働くケアリーダーたちとなる。勤務地や手当支給に応じて異なるものの、年収を現在のおおむね300万円台から400万円台へと高め、看護師の平均給与(400万円台後半)の水準を目指す。原資は、今後の事業拡大で収益力を高めることで捻出する。SOMPOケアは19年にも介護に関わる幅広い職員の給与を年収ベースで最大80万円引
き上げていた。中核職員には賃上げとともに、より専門性の高い業務に取り組んでもらう。SOMPOグループは現在、有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅計452か所を展開している。今後3年で20施設増やし、部門売上高を現在の約1300億円から約1600億円に拡大させる計画だ。5年後までの新設数は33か所を見込んでいる。介護の現場は一般的に、過酷な業務にもかかわらず給与水準が低いという課題を抱える。事業拡大を進めながら待遇も改善することで、人手不足への対応とサービスの充実を両立させる。
(読売新聞オンライン7月28日)

このニュースは多くの介護事業者に対して、焦りをかきたてるかもしれない。厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」(企業規模計10人以上)によると、介護職の年収は、男性が約364万円、女性が約326万円。他の職種に比べて約100万円低い。財源が介護報酬である以上、社会保障費の抑制策が続くなかで、明確な年収増は期待できない。厚労省は介護報酬に処遇改善加算を措置しているが、この加算には、下記の細かい算定要件が設けられている。「職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系を整備すること」「資質向上のための計画を策定し、研修の実施または研修の機会を設けること」「経験もしくは資格などに応じて昇給する仕組み、または一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること」。この加算が収入に反映されるのは一部の介護士である。こうした現状にあって、労働政策審議会で雇用保険料の引き上げが検討されるという。引き上げられれば手取り額の減収も考えられる。厚労省は2025年には34万人の人手不足が生じると予測しているが、現行の賃金水準では、失業者の労働移動による人材確保も進まない。頼みの綱である外国人労働者の確保も、コロナ禍で遅滞する一方で、送り出し国の経済発展にともなって日本で稼ぐ動機も低下していく。SOMPOケアが介護職1000人の年収を100万円引き上げる措置は、介護職の採用・定着を大きく前進させるだろうが、多くの介護事業者はこれだけの資力を有していない。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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