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社外取の活用道半ば?

外部の視点で経営に目を光らせる役割が期待される社外取締役。6月に改定を予定する企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)は、東証1部を引き継ぐプライム市場に上場する企業に対し、取締役会の3分の1以上を独立した社外取締役で構成するよう求める。「社外取の今」をデータで読み解く。
社外取の数は増えている。2015年6月に策定された企業統治指針が背景にある。金融庁と東京証券取引所が上場企業に、独立した社外取締役を少なくとも2人を選ぶように求めた。東商の場合、独立した社外取を2人以上置いた上場企業は14年に13%だったが、20年は78・5%と伸びた。
(中略)
企業統治がうたう「持続的な成長と企業価値の向上」にはつながっているのだろうか。東証1部で3月期決算の1314社について自己資本利益率(ROE)を調べると、社外取の「3分の1以上」の807社の中央値は6・48%だったが、「3分の1未満」の507社は6・59%だった。
直近5年の変化を軸にみると、元から「3分の1以上」だった203社は6・76%と、調べた区分の中で最も高い。「3分の1以上」に増やした604社が6・39%だったのに対し、「3分の1未満」で変わらない403社は6・52%だった。
今のところ、社外取の割合との相関見解は見えづらい。ただ、ガバナンス構築のあり方は業種や企業規模で異なる。
(日本経済新聞5月29日)

社会取締役の人数にかかわらず、日本企業のROEは芳しい水準ではない。
2014年8月に発表された経済産業省の「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」最終報告書は、プロジェクト座長・伊藤邦雄一橋大学教授(当時)の名前を取って「伊藤レポート」と呼ばれる。
伊藤レポートが提言したのは「ROE の目標値8%」。さらに3カ月後の11月、米国の議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が「2015年日本向け議決権行使助言基準」にROE基準を明示した。過去5期平均のROEが5%を下回っている場合、経営トップの取締役選任に反対を推奨することを発表したのだ。
東証一部上場企業でCFOを務めた経験を持つ財務コンサルタントは、ROEが明示された背景を次のように説明する。
「ROEが8%になるまでに株価はほとんど上がらないが、日本企業の多くは8%以下の解散価値(PBR=株価純資産倍率が1倍)に近い水準にとどまっている。ISSも本当は基準を8%に設定したかったのだが、東証一部上場企業でROEが以上で、PBRも1%以上は30%ぐらいになり、約70%の企業に対して代表取締役の再任に反対決議を助言せざる得なくなってしまう。だから5%に設定した」
米国の上場企業は、ROEが日本の上場企業の2倍だという。
「米国の上場企業のROEは平均15%だが、日本の上場企業はコロナ禍の前は平均7~8%でウロウロしている」
この状況は社外取締役の起用以前の問題だが、まだ社外取締役にROE向上への助力を求めていないのだろうか。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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