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利益は笑顔になる「手段」

「きょうの進行は『まいまい』と『むしゃむしゃ』です。よろしくお願いします!」。明るい掛け声を合図に約30人がオンライン上に集まって画面上で一斉に手を振る。4月下旬、大企業の人事担当役員らが参加する「みんなで幸せでい続ける経営研究会(幸せ研)」の定例会が始まった。
幸せ研はいわば幸福経営の「虎の穴」だ。コーチング事業を手掛けるウエイクアップ(東京・品川)社長の島村仗志と、慶応大大学院教授の前野隆司が共同代表を務め、第4期(2020年10月~21年9月)は大企業13社の人事担当者らが参加。月1回、3時間に及ぶ定例会を実施している
(中略)
 各社が幸福経営にシフトする背景について、前野は幸福度の高い社員は創造性が3倍、生産性は1-3倍高いといったエビデンス(科学的根拠)の積み上げ、新入社員の離職率上昇に対する経営者の危機感を挙げる。  日立製作所による業種の異なる83社、延べ4300人が参加した実証実験でも興味深いデータが得られた。幸福度の測定や行動変容などを促すスマホアプリを使うことで、新しいことに挑戦するエネルギーに満ちている状態を示す指標「心の資本」が33%向上したという。
(日本経済新聞 5月27日)

人を資本と考える経営は人本主義経営ともいわれるが、幸福経営も同じ考え方だ。その実践を評価する顕彰制度に「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞がある。
主催は坂本光司・元法政大学大学院教授が立ち上げた「人を大切にする経営学会」。坂本氏は、好業績を持続する企業を分析して、各企業とも①従業員とその家族②外注先・仕入れ先③顧客④地域社会⑤株主――この5分野の「人」を①から⑤の順番で大切にしていることを解明した。  
この成果をもとに、2010年に「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞が創設された。18年の第8回で介護事業者が実行委員会特別賞を受賞した。過酷な就労環境から離職者が多く、就職人気も芳しくない業界だが、何が評価されたのだろうか。
受賞したのは社会福祉法人・合掌苑(東京都町田市)である。年間収入は約27億円、職員数は約580名。主な受賞理由は次の4点だった。
第一に、働き方改革に積極的に取り組み、現在の職員1人当たり月間所定外労働時間は7.6時間と短い。第二に、職員満足度を高める経営に注力し、職員の離職率は業界平均の17%前後に対して実質7~8%台である。第三に、社員満足度調査を毎年1回10年連続実施しているほか、全職員に毎月1回個人面談を実施し、職員の満足度を高める努力をしている。第四に、女性スタッフへの配慮が高く、産休後の復帰率が100%である。
合掌苑の経営幹部には女性が多いが、取材した女性理事は部下に育成についてこう話していた。
「私には愛があります。愛があれば成果が出るまで待てるので、焦らせないようにしています。どんな状態の職員も、家に帰れば大事なパパであり、大事な息子や娘なのです」  

世のハラスメント行為におよぶ上司たちは、部下の家族を前にしても同じ言動をとれる のか。自問自答したほうがよい。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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