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矛盾あらわ 実習生、相次ぐコロナ解雇…“転職”解禁も

新型コロナウイルスの影響で、外国人技能実習制度の矛盾が改めて浮き彫りになっている。日本の技術を習得してもらう目的で企業などに受け入れられている実習生が「解雇」されるケースが相次ぎ、国は救済措置として人手不足の別の産業に振り向ける形での「転職」を解禁した。実習生が労働力として扱われる実態がコロナ禍でさらに鮮明となっており、専門家は「実習制度はただちに廃止すべきだ」と指摘する。
昨夏に「とび」の実習生として来日したベトナム人のアインさん(25)=東京=の職場は、建設現場ではなく関東のテーマパークだった。ぬいぐるみの修理や清掃の仕事で、20万円と聞いていた月給は5万~11万円。感染拡大を受け、2月にテーマパークが休園すると待機を命じられ、5月に解雇された。実習先の変更を監理団体に申し出ても取り合ってもらえなかった。
日本の技術を習得させ、相手国の発展につなげることが目的の技能実習制度。実習生は指導を受ける立場のため別業種への転職はできず、実習先を変わることも自由にできない。法律には「実習は労働力の需給調整の手段として行われてはならない」とあるが、実際には安価で都合の良い労働力として扱う行為が横行している。
(西日本新聞 10月26日)

技能実習制度は人手不足に悩む企業に対する「人的補助金」ともいわれる。制度の趣旨が実習でも、真の目的が労働力の補完であることは、送り出し機関・監理団体・実習実施事業者のいずれにとっても、長年の了解事項だった。いまも変わっていない。
これほどタテマエと実態が乖離した制度は珍しい。転職が可能な特定技能が創設されたとき、やがて技能実習制度は、特定技能に一本化されるだろうという見方が出たのも当然である。
今般、技能実習生に対して特例的に解禁された転職(制度上は実習先の変更)の就労先は、特定技能の対象となった14業種である。1年後に日本語能力など要件を満たせば特定技能に移行できる。技能実習生から特定技能に移行させる呼び水にも見える。
日本経済新聞(10月24日付)によると、特定技能の資格取得者はアジア6カ国で計7700人超。業種別の内訳は、介護3600人、飲食料品製造1800人強、農業900人強、外食900人弱。コロナ禍で来日は足踏み状態だが、今後来日が本格化して就労実態がクローズアップされれば、特定技能への移行を望む技能実習生は増えるはずだ。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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