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「最低賃金上げ」で中小企業が淘汰の可能性 経産省警戒

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菅義偉政権の中小企業政策に注目が集まっている。菅首相が持論とする「最低賃金(最賃)の引き上げ」を強力に実施すれば、経営基盤の弱い中小企業が淘汰(とうた)される可能性があるからだ。首相は早速、梶山弘志経済産業相に「中小企業の再編促進などによる生産性の向上」を指示。新政権は、税制上の優遇措置などを定めた中小企業基本法の見直しに踏み込むという観測も出ている。経産省はこれまで、一定の新陳代謝を促しつつも積極的に企業数を減らす手法を取ってこなかっただけに、省内には政策転換への警戒感も漂う。

「『引き上げありき』ということではなく、上げられる環境づくりがまず第一だ」。首相が自民党総裁選で最賃の全国的な引き上げに言及したことに関連して、梶山氏は今月18日、再任後初の閣議後会見でこう強調した。

首相は官房長官を務めていた頃から最賃引き上げの推進派。昨年5月の経済財政諮問会議では、最賃引き上げについて「5%程度を目指す必要がある」という新浪剛史サントリーホールディングス社長の発言を引き取り、「私が言いたいことを全部言ってくれた」と強調した。世耕弘成経産相(当時)は「中小企業・小規模事業者の現場では、現行の引き上げペースが精いっぱいだ」と、大幅な引き上げには慎重な姿勢を示した。(SankeiBiz 9月25日)

そもそも中小企業の定義を整理する必要がある。中小企業基本法は1963年に制定され、業種によって中小企業の定義が異なっている。製造業は「資本金3億円以下または従業員300人以下」、サービス業は「5000万円以下または100人以下」というように。

さらに中小企業のなかで従業員5人以下の卸売業・小売業などの商業とサービス業、従業員20人以下の製造業・建設業・運輸業・その他業種は「小規模企業」と区分され、俗に零細企業ともいわれるが、零細企業という言葉は蔑視しているとの理由で忌避されがちな面もある。

その後、大企業にも中小企業にも属さない企業規模群として「中堅企業」という概念が創出され、これに「ベンチャー企業」が加わった。かつては「設立5年以内の研究開発型企業で、売上高対研究開発費率10%以上」をベンチャー企業と定義する見解もあったが、流通業やサービス業で革新的なビジネスを仕掛ける企業がベンチャー企業を自称するようになって、ベンチャー企業の定義は曖昧になった。事程左様に企業群の区別は明確でない。最低賃金引き上げの議論の前に、企業区分の見直しが必要だろう。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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