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タニタの選択 社員を個人事業主に

正社員制度にほころびが見えてきた。高度経済成長を支えた終身雇用や年功序列などの仕組みが今は逆に日本企業の競争力をそいでいる。どうすれば社員のやる気を引き出せるか。タニタは正社員にあえて退社してもらい、業務委託契約を結び直す大胆な施策を打ち出した。会社と働く側の新たな関係性を探る挑戦だ。
「線虫は、がん細胞の臭いを嗅ぎ分けられるらしいです」。タニタ開発部の西沢美幸主席研究員(51)は熱く語り始めた。虫の学会に参加して得た情報だ。西沢さんは「よろず解析屋代表」というもう一つの顔を持つ。線虫への興味はデータ解析屋の側面だ。
正確には2016年末にタニタを退社している。24年間、体脂肪計などの根幹となるデータ解析技術を担ってきた。17年に解析のプロとして独立した一方で、正社員時代と同様にタニタでの仕事も続けている。
実力は認められていたが閉塞感を抱えていた。「データ解析もタニタも好き。だけど会社の枠にとらわれず自分の力を試してみたかった」。そんなとき会社が新しい働き方を導入した。正社員ではなくなるが、業務委託契約を結び、退社前の仕事と収入は保証される。
(日本経済新聞 4月7日)

ひところ流行語になったナレッジマネジメントも、ナレッジをもった社員が退職すれば弱体化することがわかり、昨今は聞かれなくなった。

ナレッジは社員の頭脳に蓄積されるので、社員とともに流出する。社内で唯一無二の傑出した社員に退職されないように、ポストや業績給で処遇を改善しても、社内バランスを考えれば限界がある。しかも傑出した社員は、組織の枠を超えて行動するものだ。それだけに組織のしがらみからの解放を希求し、沸点に達すれば退職・独立してゆく。
その点、タニタの独立制度は、会社と社員の双方にメリットを見出せる。この記事によると2016年に個人事業主に転身した7人の平均手取り額(年間)は、17年に約200万円アップしたという。タニタからの業務委託料(基本報酬および成果報酬)に、タニタ以外からの報酬が加わったのだ。

個人事業主になれば自分の市場価値を把握できるので、スキルの向上にもプラスだが、社員から個人事業主への転身にはリスクがともなう。魅力的な制度だが、多くの会社への普及は難しいだろう。
 

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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