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社長が事業をやめる時 「後継者不在」の連鎖

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業歴50年以上の靴の輸入業者が債務整理を進めると聞きつけ、会社に向かった。本社は人の気配がなく、すでに閉鎖されている。だが、ドア越しに声をかけると返事があった。ドアを開け中を見ると、高齢の社長が黙々と事務作業をしていた。少し拍子抜けしながら聞くと、事業は前日で止め、残務処理をしているという。社長は入り口に立って質問する私を招き入れ、取材に応じてくれた。
これまで海外から靴を安く仕入れ、国内で販売していた。事業がうまくいっている時もあったが、近年は消費低迷のあおりを受けていたという。調査レポートに目をやると、2000年代半ばには10億円を超えていた売上高も、直近は最盛期の半分以下になっている。さらに、数カ月前に大口の取引先が倒産したという。その取引先は社長が亡くなり、後継者もいなかったという。主力の販路を失うことで厳しい経営にますます拍車がかかり、自身の体調面も考えると事業継続を断念した、と穏やかに語った。
後継者がいたのか尋ねると、「息子が別で事業をしているが、譲ることはしなかった」とポツリ。従業員には、いつか自分で会社を興すよう伝えたという。はっきりと口にしなかったが、業績不振の会社を誰かに引き継がせるより、自分で終止符を打ちたかったようだ。
(東京商工リサーチ 1月16日)

高齢化は社長の平均年齢にも顕著に現れている。東京商工リサーチの調査によると、2018年の社長の年齢分布は年とともに高齢化が進み、構成比は60代が30.35%で最高だった。70代以上は前年比1.95ポイントアップし、28.13%と調査開始以来、最高を記録したという。

その一方で、60代は2013年以降、年々構成比を下げて30.35%、30代以下は2.99%まで構成比を下げた。

社長の高齢化は役員の高齢化も招いているはずで、おのずと会社の活力は低下してゆく。高齢でもすぐれた判断力を保持する人は多いが、活力だけは肉体の衰えとともに低下する。この自然現象には抗えない。

現に、東京商工リサーチが調査したところ、社長年齢と業績は、70代以上は「減収」「赤字」がもっとも多く、「連続赤字率」も10.65%に達し、社長の高齢化に伴い業績にマイナスの影響が強く出てきているという。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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