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残業できない大企業が中小企業に“丸投げ”。残業規制も有休義務化も困難

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働き方改革関連法が4月1日から施行された。その中心は残業時間の罰則付き上限規制と「年5日の有給休暇(有休)の取得義務」だ。

残業時間の上限規制については中小企業(従業員300人未満)での実施は2020年4月1日からだが、有休取得義務はすべての企業が対象になる。だが、人手不足が深刻な中小企業にとって残業規制や有給取得義務をクリアするのは容易ではない。
すでに残業規制で先行する大企業のしわ寄せを受けている企業もある。
内装のリフォームを手がける中小企業の社長はこう語る。
「元請け会社の依頼で仕事をしますが、発注先には飲食店などの店舗もあります。閉店後の午後9時から作業の際には、今年(2019年)1月までは元請けから現場監督が1人来て指図していました。ですが、今は『会社の規定で午後8時以降の残業ができなくなった』と言われ、丸投げ状態です。とりあえず代理の監督を置いて仕事をしていますが、余分に人を派遣しないといけませんし、発注先からいろいろと注文をつけられ、深夜の作業になることもある。今の段階で働く時間を減らすことなどとても無理です」
大企業が業務の効率化やムダの削減という名目で残業を減らそうとすれば、仕事の一部が下請け企業に転嫁される。(BUSINESS INSIDER 4月11日)

大企業の残業規制が発注先の中小企業に無理を強いることは当初から懸念されていた。わかり切っていた問題である。

働き方改革は納期の調整など取引関係全体で取り組まないと、優越的地位の乱用が発生しかねない。多くの中小企業はそう受け止めているだろう。

現に、大企業の残業規制で無理を強いられる中小企業では、ますます人手不足が悪化して、人手確保難や人件費高騰などによって、挙句の果てに人手不足倒産に至っている。東京商工リサーチの調査では、2018年度の人手不足関連倒産は400件(前年度比28.6%増、前年度311件)に達した。年度ベースでは、2013年度に調査を開始以来、最多件数となった。

このままでは“働き方改革関連倒産”という歪な現象が発生しかねないが、大企業に中小企業をおもんばかる感覚は乏しい。結局、立場の弱い中小企業は忍従を強いられていくではないか。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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