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IT人材報酬 海外と差 

「転職先はやはり、GAFAなのかな」。人工知能(AI)やデータ分析の技術者、大谷祐介氏(33、仮名)は悩んでいる。
勤め先は都内のIT(情報技術)スタートアップ。待遇に不満はなかった。だが米アマゾン・ドット・コムの日本法人に昨年転じた元同僚の年収が2倍になったと知った。最先端のデジタル技術を追い続けるのはお金がかかる。受講料3万5千円のセミナー代を自己負担して参加すると、同席した米グーグル所属の知人は会社の補助で来ていた。

データ経済が到来し、優秀なIT人材の確保が企業の競争力を左右するなか、NTTの澤田純社長は頭を抱えている。「35歳になるまでに、研究開発人材の3割がGAFAなどに引き抜かれてします」
プロ人材の獲得を阻むのは「年功序列型」の報酬制だ。米IT人材の平均年収は20~50歳代で1千万円を超え、ピークは30代の1200万円超。日本は20代から階段状に積み上がる年功序列型で、最も高い50代でも約750万円、30代は520万円。優秀な若手人材はこの賃金体系では「育成中」との位置づけだ。
(日本経済新聞 3月21日)

外資系企業の場合、金融機関が典型だが、年収1500~2000万円クラスの社員が高いパフォーマンスを何年も継続できることは稀である。このクラスの社員にパフォーマンスが落ちても再起の機会が与えられることはなく、ほとんどが退職してゆく。

いわばハイリスク・ハイリターンの雇用形態で、使い捨て人事ともいえなくもない。しかし、外資系金融機関やIT企業に入社する人はこの実態を承知済みで、高給を得たら貯蓄に廻して、失業時に備えているという。元外資系証券会社社員は「自分もそうだったが、多くの人は30代で2000万円ぐらいの貯金はもっていると思う」と打ち明ける。同時に在籍中に人材紹介会社に登録して、転職活動の布石を打っている。

こうした事情を踏まえると、給与水準の日米格差は数年間の格差にすぎないともいえる。GAFAに転職するエンジニアには給与だけでなく、巨大プラットフォーマーでスキルを試したい、あるいは磨きたいという動機が働くのではないか。
エンジニアの流出について、給与だけに着目するのは現状的でない。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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