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どんな言動にも潜むパワハラのリスク

労働問題のうち、かつては解雇に関する相談件数が多かったが、近年ではパワハラを含む職場での「いじめ」によるものが急増しているという。こうした問題の案件を多く扱う笹山尚人弁護士は、「以前は表に出てこなかったものが顕在化したのが半分、純粋に紛争が増えたことが半分ではないか」と話す。

かつての日本はいったん会社に入れば、定年まで勤めあげることが一般的だった。「当然、仲間として一緒に過ごす期間が長くなりやすいので、職場の仲間を人格的な破綻まで追い詰めるようなことは少なかったのではないか」

ところが今は人員の入れ替わりも激しく、「正社員の中には派遣社員の名前すら分からない人もいるような時代。ストレスも多い社会でトラブルが起こりやすくなっている」のも事実だ。

こうした背景も踏まえ、厚生労働省は平成24年1月、パワハラを「同じ職場で働く者に対し、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超え、精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為」と定義した。ただこれだと定義が広く、捉え方によってさまざまに解釈も可能で、「どんなことにも当てはまりやすい」。
(産経新聞 5月5日)

管理職研修で部下との接し方が取り上げられると「叱ると怒るは違う。愛情を込めるのが叱るで、感情に流されるのが怒るである」などと説明されるものだ。理屈はその通りだが、受け手にとっては叱るも怒るも大差はない。どちらも、大きな声を責められるという心証をもつことに変わりない。

注意や叱咤がパワハラになるかどうか。それは、どんなトーンで発言したのかというよりも、むしろ発言者が部下から尊敬とまではいかなくとも、上司に値する人物として認知されているかが分岐点となる。この場合、上司に値するにはスキルよりも人柄が決め手となる。

しかし、認知される人柄を上司に求めても、無いものねだりにもなりかねないから、やはりパワハラ基準の明文化が必須である。たび重なる違反者には、いかに有能な役員・社員であろうと降格を含む厳重な処罰を実行しない限り、パワハラ問題は解消しない。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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