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ノバルティスファーマ業務停止処分はどこまで業界を浄化する?

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製薬会社ノバルティスファーマ(東京都港区)が3000例以上の薬の副作用情報を国に報告していなかった問題で、医薬品医療機器法(旧薬事法)違反にあたるとして、厚生労働省が同社を業務停止処分とする方針を固めたことが2日、関係者への取材で分かった。停止期間は15日前後で検討している。ノ社に対する行政処分は2回目で、製薬会社が副作用の報告義務違反で業務停止処分を受けるのは初めて。(毎日新聞2月3日)

厚生労働省は大手製薬会社ノバルティスファーマを業務停止処分にする方針を固めた。同社の抗がん剤などで副作用を発症させた患者のうち、期限内に報告されなかった患者数は3246人にものぼり、厚労省は会社側の説明を受けたうえで、医薬品医療機器法に基づいて処分を下すという。

副作用の報告をめぐる業務停止命令は初めてのケースだそうだが、どれだけの抑止効果が出るかは処分の内容次第だ。業務停止命令がたびたび発令される金融界で、性懲りもなく不祥事が繰り替えされてきたのは、当該企業にとって危急存亡の危機に遠く及ばず、抑止効果が発揮されなかったからだ。

ノバルティスがこれだけの件数を期限内に報告しなかったのは、要は、厚労省を舐めきっていたからだろう。

業務停止命令をめぐって、たとえば水面下で政治をも巻き込んだ綱引きが行われているのかどうかは知る由もないが、危急存亡を自覚させる措置が下されない限り、同様の事態が繰り返されると見たほうが現実的だ。

まして「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という国民性である。業務停止命令が解けて以降は、ノバルティスとの取引を停止してきた医療機関が、ノバルティスの業務管理体制を確認せずに取引を再開しないとも限らない。

不祥事に際しては、どの当事者も「再発防止と信頼回復に努める」という声明を出すが、この国民性からすれば、信頼の回復は意外に容易だ。ノバルティスも読み込んでいるだろう。さらに言えば医薬品業界には、伏魔殿体質ゆえに、道理や法令とは異なる論理で動き続ける一面がある。

その意味で、今回の措置には厚労省の行政権が問われている。腐敗した土壌を改良するには土壌改良剤の投与にとどまらず、土の入れ替えさえも必要だが、当局と所轄業界の関係は利益相反と利益共同の表裏で形成されている。伏魔殿はどこまで浄化されるだろうか。

医療行政で問われるべきはあくまで患者の利益だが、医療提供者と患者の間に横たわる情報の非対称性は解消されない。専門知識が集積する領域だけに、そもそも解消は不可能であり、伏魔殿の土壌も一向に改良されない。

伏魔殿にとって不都合な真実が明らかにされるには、メディアの力量に負う以外にないのかもしれない。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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