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「50歳過ぎた社員は新しい価値を生まない」空前の人手不足でも進むバブル世代のリストラ

一般的にリストラは不況期に経営がせっぱ詰まった状況下で実施されることが多いが、近年は「構造改革」を理由に好況期に行われることも珍しくない。しかも決まって対象になるのは、50歳前後の中高年である。だが、少子化の進行で若年労働力の減少による人手不足が顕在化しているのになぜ人員削減なのか、なぜ中高年を対象とするのか。
例えば、三越伊勢丹ホールディングスの杉江俊彦社長はその理由として「不安を感じる社員に選択肢を示すのが会社の義務」とし、「最終赤字を覚悟してもやり遂げることがV字回復につながる」と記者会見で述べている。人件費削減による収益回復を狙っているように思える。
(中略)
では実際のところはどうなのか。2017年、50歳以上を対象に300人のリストラを実施した精密機器メーカーの人事担当役員(50代後半)はこう語る。
「新規事業を含めた新しい分野に挑戦していく方針を掲げていますが、50歳を過ぎた社員が新しい価値を生み出すとは思えません。40代以上の社員が半数を占めるが、4年後には50代以上が30%を占めます。今のうちに人口構成を正し、後輩世代に活躍の場を与えるなど新陳代謝を促いたい」(BUSINESS INSIDER 4月8日)

50代は不運な世代である。会社ではお荷物扱いされ、スキルアップの機会を与えられず、一方で住宅ローンや子供の教育費を背負っている。雇用は65歳まで保証されるが、上の世代と違って年金の受給開始年齢や受給額がどうなるか不透明だ。
この世代はパッとしない時代を過ごしてきた。社会人になったバブル期には20代で、存分に恩恵を味わえる年齢に達していなかった。その後はコストダウンの時代を約10年。リエンジニアリング、リストラクチャリング、ベンチマーキング、選択と集中など幾多のビジネス用語を魔法の杖のように示されたが、経営コンサルタントを潤わせただけだった。
2000年以降はITの普及とともに次の世代に主役を奪われるなかで、国の持ち家政策で住宅ローンを背負わされてしまう。
この世代を対象にシニア起業をけしかける声もあるが、ビジネス人生の起死回生を狙って、いまさら起業する年齢ではない。軌道に乗ったシニア起業家もいるが、有識者があおったところで、この世代は世情の機微に通じているだけに慎重である。
これからの人生がケセラセラかどうかはともかく、たぶん忌避したい言葉のひとつはモチベーションだろう。もう勘弁してくれと。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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