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人材系企業決算比較、利益率トップ3社を比較しました。(中編:ディップ株式会社分析)

1.ディップ株式会社

1-1.ディップの事業モデルは?

続いてディップ株式会社について分析したい。

ディップ株式会社(以下、ディップ)は、アルバイト情報サイト『バイトル』や派遣情報サイト『はたらこねっと』等インターネット求人広告サイト、また人材不足が深刻な問題となっている看護師の転職・就職を支援する人材紹介事業「ナースではたらこ」を主な事業として展開している。

ディップの広告事業のビジネスモデルの特徴として「広告課金型求人広告」が挙げられる。広告課金型求人広告とは、求人企業が広告費を支払い求人媒体に求人案件を掲載し募集を行う形態の求人広告である。リクナビやマイナビ、DODAも同様のモデルに該当する。

一方、ディップと正反対の事業モデルとして「成功報酬型求人広告」がある。これは、掲載費用を最初にもらうのではなく、求職者の応募、採用などの「成果」が得られて初めて利用料(成功報酬)が発生するというシステムである。
成功報酬型求人広告を採用している媒体として、リブセンス株式会社が運営するジョブセンスが挙げられる。

ディップの2014年度の売上高は195億3000万円、営業利益は48億600万円、そして営業利益率は24.6%であり、これはJACリクルートメントに続いて2番目に高い営業利益率となっている。

リブセンスの直近の動向は「リブセンスが遂に赤字突入、順調に伸びる販管費、頭打ちの売上高」や「リブセンス失速に感じたこと、集客コストと成功報酬モデルの罠」に詳しい説明があるが、営業利益は15億8500万円→6億3400万円と60%も減少している。一方で、ディップの営業利益は17億1400万円→48億600万円と大きく増加している。

この結果をどのように評価するかは難しいが、現状ではディップの採る「広告課金型求人広告」というビジネスモデルがまだ健在であり、採用の成否に関わらずに広告費を支払うクライアント企業が多いことが伺われる。
また、求人媒体の求職者集客力という点では、広告課金型は成功報酬型と比べて予算が組みやすく、有名タレントを使った大規模なプロモーション費用を投入できることもメリットとなる。

なお、社長の三上さんは「結局2社の違いはまともな営業組織をもっているかどうかではないの?」と言っていた。私はそこまでシンプルに捉えてしまってよいのか少し疑問に感じたが、ディップの場合はアウトバウンドで全国規模の営業組織を持ち、ダイレクトに顧客にリーチできるパワーがある。現在のように求人過多な市場においては商談機会が増えると、高額商品を売りやすくなり、継続的なリレイションから発生する受注案件も増えそうなので、売上続伸には大きく貢献しているように感じられた。

1-2.何故ディップの利益率は高くなったのか?

それでは何故ディップの営業利益率が高くなったのかを考察したい。
2013年から2014年にかけて、主力の求人広告媒体である『バイトル』と『はたらこねっと』の売上は106億900万円→169億1600万円、営業利益は26億9700万円→58億円5000万円と大幅に増加している。

その理由としては、コンビニエンスストア、アパレル、カフェなど志向性の高いユーザーに向けた専門サイトを開設したこと、スマートフォン版のサイトを新設、PC版サイトを改良したなど媒体力を強化したことに加え、CMやTV等での媒体プロモーションを強化し応募数の増加を図ったためだとIR資料には記載があった。

実際に、『バイトル』内のコンテンツの一つであり、2014年に新設されたスマートフォン版の社員求人専用サイト『バイトル社員』を見てみると、同じ正社員求人情報サイトである株式会社インテリジェンスの『anレギュラー』に比べて
① 職種・エリア・給与・フリーワードで探せる 「一発検索機能」が上部にある
② 前回の検索条件を再度見たいときにワンタッチで確認できる機能が搭載されている
という点でより機能性の高いサービスを提供している。

加えて、PC版サイトも大幅なリニューアルおよび検索性の改良が行われた。
これらは求職者に対して多くの利点をもたらすため、利用者の増加ひいては求人広告数の増加に繋がる。その結果、『バイトル社員』の売上は前年度に比べて156.9%向上した模様だ。

なお、ディップの主たるコスト構造は、サイト開発・運用費用、人件費、広告費である。
サイト開発は内製・外注どちらかによって費用のかかり方は変わってくるが、リニューアルや新サイト立ち上げの際にまとまった投資が必要になる。運用フェーズになると、どちらかというと運用メンバーの人件費とほぼ同様の金額となる。
人件費は直近で社員の処遇改善を行っているようだが、人材業界の大半の企業はリーマンショック後に大幅に水準が下がっており、元々それ程高くなかったかことが伺われる。特にディップのように新卒採用を200-300名行う企業は、平均給与が低くなる傾向が強い。
最後に広告費だが、こちらはコントロール可能なものなので、好調時には予算枠を大きく、不況時には抑制ができる。
これらのことから、コストサイドは広告費を除き固定的(人件費などは低く抑えている)であり、オーバーヘッドを超えた分が営業利益に直結するのだと考えた。

売上アップの要因まとめ
サイトの新設及びリニューアル、媒体プロモーションの施策として人気芸能人を登用など「媒体力を強化」した結果、「バイトル」の媒体としての価値が維持され、継続的な広告課金型ビジネスが展開できている。また大規模な営業組織を持ち、営業機会の増加を逃さなかった点も評価できそうだ。また、有効求人倍率の高まりは、決まらない求人を増やす結果にもつながり、これが掲載継続につながりリピーターが増加したことも伺われる。

 

<営業利益アップの要因まとめ>
基本的には有効求人倍率高騰というマクロトレンドに依存しているが、新卒・若手を中心とした安い労働力(人件費)で構成された営業組織が大きな売上高アップを達成しており、固定費を超えた部分が利益として反映されている。また、リピート掲載など営業コストは低く利益率の高い商売が増加したことも大きな影響があったと伺われる。

1-3.ディップの今後の課題


最後にディップをはじめとした「広告課金型求人広告」の今後の課題について検討したい。
順調に営業利益を増加させているディップであるが、景気が悪くなれば企業は人材採用の際にかける求人サイト等での広告費用を減らそうとするであろう。そうなった場合、求人広告自体が減ってしまうため、それはそのまま営業利益の減少にもつながる問題となる。そして今度は大規模な営業組織の人件費が重く経営に圧し掛かることになるのだ。

その場合、「広告課金型求人広告」を主力としているディップはどのような施策を講じればよいだろうか。

その一つとして事業ポートフォリオや事業モデルの見直しがある。
ポートフォリオとは、リスクやリターンなど収益性の異なる商品を組み合わせることでリスクを分散させる投資手法をいう。
例えば、求人広告媒体とは別に展開している医療系を中心とした人材紹介・派遣ビジネスへの集中を行うことが有効と考える。また、その際に営業組織の組換えを行えば、事業部別のコスト構造の転換も同時に図ることができる。
加えて直近2年間で134万円も従業員給与が上がっているようだが、短期で上げられるということは、逆に短期で下げられる仕組みであることも多い(賞与反映などは特に)ので、人件費を抑えるという守り方も可能と考える。

事業モデルの見直しについては、一部成功報酬型広告モデルの導入が検討できる。既にリブセンスのような「成功報酬型求人広告」に加えて、リクルート傘下のIndeedのようなクリック課金のアフィリエイト型や、ビズリーチが立ち上げたスタンバイのような求人企業にとって無料(ビズリーチはスポンサードサーチの広告収入のみ)のサービスも登場している。

このように求人媒体は、「広告課金型求人広告」から「成功報酬型求人広告」、「アフィリエイト型」から「完全無料型」など異なる事業(課金)モデルが乱立している。

以上のように、景気(有効求人数や広告掲載数)に左右されやすいビジネスモデルを採用しているディップにおいては、経済環境が変化したり、課金モデルのトレンドが変わる場合でも、代替策を考えておくことが営業利益等の維持・向上に繋がる鍵となるのではないかと考える。

<中篇以上>


(分析者: 縄田 桃子 レポート第2弾 「人材系企業決算比較、利益率トップ3社を比較しました。(前編:JAC分析) 」はこちら )

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縄田桃子

著者情報:
縄田桃子

早稲田大学法学部インターン2期生。弁論サークルにて「話す力」や「リサーチをする力」を身につける。次年度から始まる就職活動に対し漠然と不安を抱き、社会的な実務にも通用するスキルを身につけたいと思い、2014年9月からジーニアスに飛び込む。志望業界としては金融業界を中心に、幅広い業界みている。

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