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リブセンスが遂に赤字突入、順調に伸びる販管費、頭打ちの売上高

2015年3月期 人材紹介、派遣事業は堅調

hikaku

3月決算の上場会社の決算開示ラッシュですね。人材派遣、人材紹介ともにマーケットは堅調であり、昨年矢野経済は人材紹介の市場規模が1500億弱に到達することを予想しています。

ジーニアスでも2015年3月期の決算が無事に完了し、税務申告を準備していますが、今年は例年以上に税金をたくさん払うことになり頭が痛いです。時々同業の皆さまとお話しすると、売上高や営業利益の過去最高を更新されている会社も多く、皆様にとっても昨年度は大変良い一年になったのではないかと思います。

ちなみに、上場会社(売上高/営業利益)では、リクルート人材事業(メディア+派遣)が9779億円(3027億円+6752億円)/1187億円(780億円+407億円)、テンプホールディングスが4010.5億円/234.7億円、JACリクルートメントが92.7億円/26.6億円、メイテックが821.3億円/95.4億円を記録しており、過去最高益更新企業が目立ちました。
*リクルートの営業利益は、EBITDA=「営業利益+減価償却費+のれん償却」

リブセンス 前期は利益60%ダウン

さて、リクルートホールディングスが上場して以来、人材業界の決算関連の話題はもっぱら同社に持ちきりであり、すっかり他の会社の影が薄くなってしまいました。その中でも最近ほとんど話題にならないリブセンスがシレっと赤字決算(四半期ベース)を開示していたので、少し分析して見ることにしました。

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少し前の話ですが、リブセンスの2014年12月期の決算は売上高42.7億円(+0.5%)、営業利益6.3億円(-60%)でした。このブログでも昨年9月に「リブセンス失速に感じたこと、集客コストと成功報酬モデルの罠」というタイトルでリブセンスの不振原因と、対照的に好調なディップとの比較を行いましたが、残念なことに成功報酬モデルの問題点とグーグルペナルティの影響がまともに年度決算に反映されてしまったようです。

特に売上高横ばいに対して、営業利益が60%もダウンしており、決算の数字だけ見ると普通の人材紹介、媒体会社に落ち着いてしまっています。リブセンスの売りは、経営者の若さとプレゼンス、そして驚異的な営業利益率であり、人材採用面でも随分ブランディングに繋がっていたため、数字以上にインパクトは大きいと思います。

そして遂に1Qは赤字転落

livesence決算

そして本年度の1Qは何と営業利益が赤字に転落してしまいました。高い営業利益率でウリにしていた会社が上場来初の赤字発表です。人材系企業が軒並み過去最高益を更新する中での低迷は、リブセンスの不振をより際立たせます。

赤字決算の理由は「人件費・広告宣伝費の増加」と説明されています。昨年度より売上が頭打ちで営業利益が減少傾向にあったため「販管費は絞る」という選択肢も通常は取り得るのですが、先般のグーグルペナルティの影響でほぼSEOが機能しないジョブセンスの集客を維持するためには広告宣伝費は落とすことができないのだと思います。

しかしながら、人材紹介や求人系のリスティングは単価高騰が激しく、広告投資金額を上げても、効果は限定的となっていることが予想されます。もはやヤフーとグーグルに寄付しているような感覚かもしれません。
いずれにしても、売上は伸びず、経費は下げられない、という悪いスパイラルにハマってしまっているという見方もできます。

中計5年は長すぎないか?

livesence plan

なお、リブセンスの2013年発表の中計は売上400億円、営業利益120億円を目指しています。当時はアルバイト・派遣領域も堅調に成長中、正社員領域も取り組んだ矢先でしたが、かなり挑戦的なプランです。
私はこの計画を見たときに「中計5年は長すぎないか?」という印象を持ちました。IRで大々的に発表してしまうと、軌道修正するのに中計の断念と訂正が必要になります。リブセンスのように足の速い人材系インターネットサービスを提供している企業、”逆にいえば派遣収益基盤や紹介エージェント部隊といった資産を持たない会社”にとって事業領域を5年間コミットすることは、少々難しいような(自分で自分の首絞めている)気がしました。

今回の赤字決算の原因の1つである、人件費は2018年までの中計達成のためには、なかなか絞ることが難しい状況と思われます。既存人材系事業も約7倍の成長を目指しており、更には新規事業50億円の達成を目指すとなると、固定費を絞ったり採用を止めるというアクションも取りにくいと思います。

そのため今後も低収益トレンドは続くのではないでしょうか? 但し現預金は20億ちょっとあり(これだけで3年は我慢できる)、新しい資金調達手段もあるので、中計達成が難しそうですが、会社がどうにかなってしまうことはなさそうです。

「求人票の標準化」と「クローラー型広告媒体」がトレンドを変える

最後に、これから求人媒体に起こるであろう変化について、勝手なことを書きます。

今後2-3年の内には日本でもHR-XMLに近い求人票の共通フォーマットが導入されることが予想されます。求人票の情報量のばらつきを抑えたり、検索が容易になったり、各媒体(職安含む)への掲載の手間が省けることは、求職者、求人企業、人材紹介会社それぞれにとってメリットが多いです。

この導入に関しては、①厚労省主導になるのか、②人材系ASPサービス側から媒体社への標準化提案なのか、③とりあえずリクルートがフォーマット作って他社がそれに乗っかるのか分かりません。HR-XMLにより求人票が標準化されると、クローラー型の求人情報収集サイトの精度が高まり、これまで以上に存在感が増して、相対的に既存の求人媒体の価値が下がることが想定されます。

クローラー型の広告媒体としては、既に北米でIndeedが相当なシェアを有しています。silkroadという調査会社の2015年最新レポート(Top Sources of Hire 2015 Report)によると、求人媒体を通じたインタビュー経路の42%、採用決定者の39%がIndeedとなっており、有料求人媒体が淘汰されようとしています。

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日本では、リクナビやリクナビネクストの市場が完全に壊れてしまうので、リクルートの全社戦略的に買収したものの日本のIndeedのビジネス開発が遅れている(遅らせている)ような印象です。
Indeedの「一般的なクリック単価は15~90円」ですので、これが一般化してしまうと、いったいリクナビネクストの広告料金って何なんだろう!?と感じる広告主が多いためです。
事実、外資系を中心に自社採用ページとIndeedや仁王、ジョブダイレクトなどを上手く使って、エントリーを集めている会社も増えています。

転職媒体市場においては非常にインパクトは大きく、媒体運営社はクローラー型の仕組みに切り替えるのか、GreenやWantedlyのようなソーシャル、リッチコンテンツ化にシフトするのか?何らかの対策が必要になります。
とりあえずフォーマットに情報を入力して小さい写真を1,2枚載せるような中途半端なコンテンツ量、且つ集客力も中途半端な媒体は非常に苦しい時代がやってきそうです。

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三上 俊輔

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三上 俊輔

2006年、早稲田大学法学部(専攻労働法)を卒業後、独立系エグゼクティブサーチ会社であるサーチファーム・ジャパン株式会社に入社。柔硬幅広い業界の部門長クラス以上の経営者獲得、スペシャリスト(エンジニア、会計士など)採用を実現。 2011年、サーチファーム・ジャパンより組織戦略及び技術コンサルティング事業を分社化し、ジーニアス設立、代表取締役就任。 理論と実践のギャップを埋め、健全なる雇用環境の発展に微力ながら貢献すべく、スカウトその他様々なプロジェクトを戦略的に遂行している。

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