Talk Genius

人と会社と組織を考えるニュースマガジン

脱「適材適所」で大きな効果 中外製薬の人事担当役員に聞く

中外製薬は2020年、必要なポジションを起点に「人財」を登用するジョブ型人事制度の導入に着手した。管理職から始めた取り組みを、2025年には一般社員にも拡大。社員が希望するポジションに自ら応募できる仕組みも導入した。「適材適所」から「適所適財」への転換を、経営陣や社員の意識にどう浸透させてきたのか。上席執行役員 人事・ESG推進統括の矢野嘉行氏に聞いた。
(中略)
矢野嘉行氏(以下、敬称略) 「R&Dアウトプットの倍増」「自社グローバル品を毎年上市する」という非常にチャレンジングな目標を実現するには、従来の人財マネジメントでは難しいという問題意識が生まれました。社長を中心に、人財の配置や育成の在り方そのものを変える必要があるのではないかと議論を始めたのが発端です。
 それまでの人事の発想は、その人が力を発揮できる場所で頑張ってもらう「適材適所」でした。しかし、成長戦略の実現には必要なポジションを先に定義し、そこに人財をアサインする「適所適財」への転換が必要だと考えました。当時の社長が掲げた「Pay for Position」です。
 一方、会社が必要なポジションを起点に人財を配置するだけでなく、社員一人一人が自らキャリアを描き、自律的に成長していくことも必要です。こうした考え方を示したのが、「個を描く・個を磨く・個が輝く」という人財マネジメント方針です。
(Japan Innovation Review 10月16日)

中外製薬が「適材適所」を離れ「適所適財」へと人事の思想を移したのは、研究開発成果の倍増と自社グローバル品の毎年の上市という、従来の延長では見えない地平が前方にあったからだ。
先に必要なポジションを定め、その役割にふさわしい人材を据える「Pay for Position」は、年齢や勤続年数で人を置く思考から、事業が求める能力を出発点とする思考への移行であった。2020年に管理職から始まり、25年に一般社員へ及んだ歩みは、変革が制度の導入のみでは終わらないことを告げている。
だが、ポジションを明らかにしても、人がおのずと力を放つわけではない。会社の求める役割と社員の望むキャリアが、いつも重なるとは限らないからだ。希望するポジションにみずから手を挙げられる仕組みは、配置を上からの命令に委ねず、本人の意思と能力とを結び合わせようとする試みなのだろう。
しかし応募の門が開かれていても、挑む経験を積む機会や、失敗を成長へつなぐ支えがなければ、自律はいつしか自己責任という冷たい言葉に変わってしまう。
「個を描く・個を磨く・個が輝く」という方針の核心は、社員にキャリアの設計を促すことにとどまらない。会社が事業戦略の求める役割を示し、そこへ近づく成長の機会を用意し、挑戦の結果を公正に測る。それらが一つに溶け合ったとき初めて、個人の意欲は組織の成果へと結ばれてゆく。
人をポストに当てはめる制度から、ポストを通して人の可能性を汲み出す制度へ――その成否は、役職の定義よりも、役割へ向かう道を社員が肌で感じ取れるかにかかっている。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

この著者の記事を全て見る

Talk Geniusとは-

ヘッドハンティング会社のジーニアスが提供する人と会社と組織を考えるニュースマガジンです。