2026/09/08

ビジネスモデル論が専門の今枝昌宏氏による『競争力を高める5つの組織改革』(中央経済社)から一部を抜粋。事業転換と並行して大胆な組織改革を行い成功を遂げた企業の事例とともに、閉塞感を打破する組織の在り方について解説する。
(中略)
サティア・ナデラ氏が2014年にマイクロソフトのCEOに就任する以前、マイクロソフトは経営危機に瀕していました。
(中略)
ナデラ氏は、この根本的な問題に対処するため、企業文化改革に積極的に乗り出しました。それは、ナデラ氏自身が「CEOのCはカルチャーのC」と述べるほど積極的なものでした。まず会社のアイデンティティとミッションを再定義することから着手しました。
彼の改革の中心に据えられたのは、過去の成功に縛られる「知ったかぶり」をする文化から、常に新しいことを学び続ける「グロース・マインドセット」、すなわち「学び続ける」文化への転換でした。
ナデラ氏は、この思想を単に掲げるだけでなく、経営者自身が実践し、失敗を恐れない姿勢を示すことが重要であると強調しました。
シニア・マネジメント・チームの中の役員の何人かを新たな企業文化にふさわしい役員に入れ替え、彼らのリーダーシップにより新たな企業文化の組織への浸透を図る一方、社員のミーティングや顧客イベントなど様々な機会を通じて新たな企業文化を社員に向けて発信しました。
(Japan Innovation Review 8月28日)
サティア・ナデラの改革を貫くのは、まず鋭い言葉の選び方である。「CEOのCはカルチャーのC」という一句は、たんなる標語ではなく、経営とは結局のところ、人間の精神をどう組織化するかという、古くて新しい問いへの答えなのだろう。
組織とは制度である以前に、人々の記憶と習慣が織りなす、ひとつの物語である。ナデラ氏がまず着手したのが企業のアイデンティティとミッションの再定義であったことは、示唆に富む。
マイクロソフトがかつて陥っていたのは、成功体験という名の牢獄であった。知ったかぶりの文化とは、過去の栄光にしがみつき、変化を恐れる人間の弱さそのものにほかならない。それを「学び続ける」姿勢へと転換させるという発想は、経営技術というより、むしろ人間の再生を促す思想に近いものだ。役員の入れ替えという痛みを伴う決断もまた、机上の理論ではなく、実践から生まれた覚悟の表れであろう。
組織改革とは畢竟、制度を変えることではなく、そこに生きる人々の心を動かすことにほかならない。企業もまた、人間と同じように、老いることを恐れず、再生を繰り返す生き物なのかもしれない。経営者が言葉を尽くして文化を語るという行為は、すでにひとつの詩作であるとも言えよう。
組織に生きる人々の心もまた、季節のように移ろい、芽吹くものである。経営もまたひとつの詩であり得ることを、この改革は静確かな声で語りかけてくるのである。
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