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なぜ関西電力は人財戦略で「人事が課題を決めない」のか

経営戦略と人財戦略の連動は人的資本経営の理想の1つだが、本当に実現できている企業はまだまだ少ない。関西電力グループは2026年4月に定めた経営計画を機に、人財戦略の策定を、経営戦略を決めた後に人財を手当てする「リレー形式」から、経営・事業部門・人事が同時に議論する「スクラム形式」へと転換。絵に描いた餅で終わらせない戦略策定の要諦を、関西電力で人財・安全推進室 人事部長を務める三島英之氏に聞いた。
(中略)
 事業部門やグループ会社と2040年を見据えた人財戦略を議論することは容易でなかった。
「事業部門としても、『2040年を想像してください』と言われたところで、必要な人財戦略を描くことはできません。不確実性が高く、難しいという声が多くありました」
 そこでまず、人口動態やテクノロジーの進展の在り方など、2040年の社会環境として可能性が高い状況を、共通認識として持つようにした。これにより、各事業が目指す姿を実現するために「人財面から必要な施策を、いつ、どのように実行していく必要があるのか」という具体的な議論へと進んだ。「今の延長線で本当に事業戦略を実現できるのか」と人事が問いかけて議論を重ねる中で、事業部門自身が目指す姿を具体的に描き、自らの課題として捉えられるようになったという。(Japan Innovation Review 8月27日)

関西電力グループが人財戦略を「リレー形式」から「スクラム形式」へ変えた意味は、人事部門を経営会議に参加させたことだけではない。むしろ重要なのは、2040年という予測困難な未来を、最初から正確に描こうとしなかった点にある。
事業部門が「2040年を想像しても必要な人財は描けない」と答えたのは、当然だろう。人口動態も技術も変わる。そこで関西電力は、人口動態やテクノロジーの進展など、可能性の高い社会環境を共通認識として置いた。そのうえで「いまの延長線で本当に事業戦略を実現できるのか」と人事が問い、事業部門に考えさせた。
ここに人的資本経営の難所がある。人事が経営戦略を理解して必要な人材を調達するだけなら、従来の人事の延長にすぎない。しかし、未来の事業を考える過程に人事が入り込み、「その事業を担う人間は、いまの組織に本当に存在するのか」と問い返すなら、人事は初めて経営そのものに関与する。
さらに重要なのは、こうした対話が人事だけの仕事を変えるのではなく、事業部門の側にも「自分たちがどんな事業をつくりたいのか」を言語化させる点である。人財戦略が経営戦略に従属するのではなく、両者が往復することで、経営戦略そのものが具体化されてゆく。
関西電力グループの人財戦略とは、未来の不確実性を前に、事業と人事が互いに問いを返しながら、現在の組織を変える理由をつくることなのだろう。「スクラム」という言葉には、同時に走ること以上に、経営と現場がともに未来をつくる責任を引き受ける姿勢が込められている。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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