2026/07/29

日本看護協会は7月13日、日本訪問看護財団、全国訪問看護事業協会と連名で、厚生労働省の黒田秀郎老健局長に「令和9年度介護報酬改定に関する要望書」を提出した。
訪問看護師の賃金は他産業との差が拡大しており、人材流出が懸念されている。また、訪問看護事業所の約4割が赤字経営となるなど、事業運営を取り巻く環境は厳しさを増 している。こうした状況を踏まえ、持続可能で質 高い訪問看護提供体制を維持するため、①すべての訪問看護師の処遇改善②訪問看護事業所の安定的な運営を支える介護報酬の確保――この2点を要望した。
秋山会長は「在宅医療を支える訪問看護を持続可能なものとするためには、他産業と 医療・福祉分野の給与差の拡大による看護職の人材流出を防ぎ、処遇改善とそのための原 資を確保することが喫緊の課題である。令和9年度介護報酬改定で、すべての訪問看護師の処遇改善と、訪問看護事業所の安定的な運営を支える介護報酬の確保をお願したい」と述べた。
黒田老健局長は「訪問看護は大切なサービスであり、光が当たることが大事だと思っている。訪問看護・訪問介護など在宅を支えていくことは新たな地域医療構想のテ ーマでもあり、ぜひ3団体の力添えをいただきたい」と応じた。
(日本看護協会作成ニュースリリースを要約 7月16日)
訪問看護の危機はたんなる賃金問題ではない。超高齢社会を支える「地域で生きる」という理念そのものが、市場原理の前で痩せ細っているのである。日本看護協会など3団体が求めた処遇改善は、職種の利益擁護ではなく、医療制度の持続可能性を支える最低条件と理解すべきだ。
訪問看護は病院とは異なり、患者の生活そのものを医療の現場とする。そこでは高度な専門性に加え、移動時間や緊急対応、24時間体制といった負担が常態化する。しかし介護報酬は、その「待機」や「移動」が生み出す社会的価値を十分に評価してこなかった。
その結果、約4割の事業所が赤字に陥り、他産業との賃金格差は拡大し続けている。厚生労働省の賃金構造基本統計調査でも、医療・福祉分野の賃金上昇率は他産業に見劣りする年が少なくなく、人材流出の懸念には客観的根拠がある。
皮肉なのは、国が地域包括ケアや在宅医療を未来像として掲げながら、その土台となる労働を「献身」の倫理に依存してきたことである。理念だけを語り、現場の経済を放置する政策は、やがて理念そのものを空洞化させる。社会は、人は使命感だけでは暮らせないという自明の事実を忘れがちだ。
黒田秀郎老健局長は「訪問看護に光が当たることが大事だ」と語った。光とは、言葉ではなく予算のことである。介護報酬は国家の価値判断を映す鏡だ。そこに十分な厚みがなければ、在宅医療はかけ声だけを残し、地域社会は支え手を失っていく。
訪問看護の賃金が伸び悩む理由は、介護報酬の水準だけでは説明できない。その背後には、急性期医療を頂点とし、在宅へ向かうほど専門性が低くなるかのような価値序列がある。それが報酬に映し出されているのである。
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