2026/07/23

埼玉県を地盤に約202店舗(2026年3月時点)のスーパーマーケットを展開するヤオコー。37期連続の増収増益を誇る一方、IT部門はベンダー依存と高コスト体質という構造的な問題を抱えていた。その立て直しを主導したのが、執行役員CDOの小笠原暁史氏だ。組織を約20名から55名へと拡大し、クラウド基盤構築とデータ活用も内製で推進。ベンダー依存から脱却し、現場を起点とした変革を進めたプロセスを聞いた。
(中略)
――DXを推進するに当たり、何をどのような順番で手がけていったのですか。
小笠原 個別の施策に取り組む前に、まず3つの土台を整えることを優先しました。ベンダー任せにせず、自社でDXを推進するための判断軸、それを実行する組織体制、そしてプラットフォームとなるクラウドネイティブのIT基盤構築です。
(中略)
――組織体制づくりではどんなことを意識しましたか。
小笠原 従来の情報システムの機能を根本から再設計する必要がありました。IT部門の立ち上げ期の2022年度は、機能別組織への移行と専門人材の採用、2023年度はマネジメント体制の最適化と社内公募による若手の登用、2024年度からはクラウド専門チームの分離などを進め、メンバーは約20名から55名へと3年で倍以上に増えました。また、単に人を増やすだけではなく、採用、評価、内製化の仕組みをセットで整えることも重視しました。
(Japan Innovation Review 7月13日)
37期連続の増収増益という数字は、ヤオコーの商品力や店舗運営の強さを物語る。しかし、その陰でIT部門がベンダー依存と高コスト体質に陥っていた事実は、今日の日本企業が抱える病理を象徴している。利益を積み重ねる企業ほど、情報システムを「外注すれば済む裏方」とみなし、経営資源として育ててこなかったのである。
小笠原暁史氏が最初に着手したのは、個々のDX施策ではなく、判断軸、組織、クラウド基盤という3つの土台づくりだった。この順序には必然性がある。企業競争力を蝕む最大の要因は老朽化したシステムではなく、それを自ら制御できない組織構造である。
特筆すべきは、3年間でIT部門を20名から55名へ拡充した点である。人員増加だけを見ればたんなる投資に映る。しかし同時に採用、評価、内製化の仕組みを組み替えたことに、この改革の本質がある。ITは人数ではなく、意思決定を自社に取り戻す能力で価値を生む。ベンダーに設計思想まで委ねた企業は、変化のたびに費用を払い、自社の未来を借り物の技術に預け続けるしかない。
クラウドネイティブ化も同じ文脈で理解すべきだ。それは流行技術への追随ではなく、現場の知恵を迅速に形へ変えるための器である。店舗で生まれる膨大なデータが経営判断へ還流して初めて、DXは現場の言葉となる。デジタル化とは、組織がみずから考え、改善する速度を高める営みなのである。
改革は静かな季節風に似ている。吹き始めた瞬間は誰も気づかない。しかし風向きが変われば、企業という森の葉は一斉に揺れ始める。ヤオコーの事例が示したのは、DXの成否が技術ではなく、組織の主体性を取り戻せるかどうかに尽きるという根源的な事実である。
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