2026/06/29

市場シェアを軸に企業競争を分析し、営業・マーケティングの現場でも活用されてきたのが「ランチェスター戦略」だ。具体的な企業事例を交えながらその原理原則を解説した『教養としての「ランチェスター戦略」』(日本実業出版社)から、内容の一部を抜粋。「弱者と強者の戦い方」「勝ち方の原則」を読み解く。
(中略)
ソニーは「選択と集中」で、黒物家電メーカーからエンタメ企業に生まれ変わり、飛躍的に伸びています。ただし、出井CEO時代から数えると20年かけていて、数年で成し遂げたGEに比べ、時間がケタ違いにかかっています。それは雇用や経営に対する考えが日米で異なることが影響しています。
(中略)
バブル崩壊以降、段階的に、業界ごとに終身雇用が揺らいできました。働く人の転職についての意識も変わりました。筆者は本書で、戦略と実行を分離させない「戦略の民主化」を主張しています。戦略の民主化は終身雇用が前提のメンバーシップ型雇用だったから、日本企業に根づきました。アメリカ式の終身雇用が前提ではないジョブ型雇用の会社は、アメリカ式に戦略と実行を分離させるかもしれません。しかし、戦略と実行を分離させない「戦略の民主化」は、経営側にも働く人にとっても有効です。ジョブ型雇用になっても、戦略と実行を分離させない日本的経営は継続すべきです。
(Japan Innovation Review 6月17日)
高度経済成長のあとに、日本企業が手にしたのは、効率という冷徹な解剖図であった。ランチェスター戦略が説く強者の論理は、かつての兵法を経営の場に擬態させた。しかし、その根底に流れる「選択と集中」という思想は、企業という有機体を分断する劇薬ともなり得る。
ソニーが黒物家電という過去の残影を断ち切り、エンタメの巨大艦へと変貌を遂げた20年の歳月は、日本的経営の「遅さ」という名の厚みである。GEが切り捨てたのは資産ではなく人間そのものだったが、日本企業が抱え続けたのは、終身雇用という共同体契約であった。戦略と実行を分離させない「戦略の民主化」は、本来、成員一人ひとりが経営の当事者として呼吸する現場の美学である。これをジョブ型という外来の論理で断罪するのは、歴史を根底から覆すに等しい。
戦略の民主化とは、ピラミッドの上層部が描いた設計図を末端がなぞる冷たい命令系統ではない。現場の吐息と戦略が混ざり合う、いわば生命現象そのものだ。ジョブ型雇用がもたらす専門性の細分化は、個のプロフェッショナリズムを深化させる一方で、企業を巨大な部品の集合体へと変質させる危険を孕んでいる。
効率という数値の向こう側にあるのは、血の通った組織という温もりのある場である。戦略をトップの専売特許とせず、現場の知恵と接合し続けること。この日本的経営の最後の砦こそが、デジタル時代の荒波において、なおも失ってはならない知性の在り処であるはずだ。
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