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人材派遣大手5社に公取が立ち入り検査、カルテル結んだ疑い

 労働者の派遣先企業との価格交渉前にカルテルを結んだ疑いがあるとして、公正取引委員会は2日午前、人材派遣会社大手5社に対し、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで立ち入り検査を始めた。近年の賃上げ傾向に乗じて各社が価格をそろって引き上げ、自社の利益確保を図った可能性があるとみて、公取委が全容解明を進める。 
立ち入り検査を受けているのは、「パーソルテンプスタッフ」、「スタッフサービス」、「リクルートスタッフィング」、「マンパワーグループ」、「アデコ」(いずれも東京)の5社。
 労働者の派遣事業では、派遣先企業が、労働者の賃金や経費として必要な社会保険料などを含んだ「派遣料金」を派遣会社に支払う仕組みになっている。主に年度ごとで改定される派遣料金は、労働者の賃金が7割程度を占めるとされる。残りを派遣業界では「マージン」と呼び、派遣会社側が負担する様々な保険料や自社の利益分などが含まれている。
 関係者によると、5社の幹部らは数年前から、派遣料金を巡る派遣先企業との交渉が始まるのを前に話し合って、全国的に派遣料金を引き上げる合意をしていた疑いがある。
(読売新聞オンライン 6月2日)

賃上げが時代の合言葉となった日本で、人材派遣大手5社への公正取引委員会の立ち入り検査は、たんなる独禁法事件として片付けることのできない陰影を帯びている。報道によれば、各社は派遣先企業との価格交渉に先立ち、派遣料金引き上げの合意を形成していた疑いがある。事実であれば、市場競争を前提とする経済秩序への背反である。
派遣料金の大半は労働者の賃金だが、残りは派遣会社のマージンとなる。厚生労働省の統計でも、派遣業界の平均マージン率は3割前後に達している。近年の賃上げ圧力を受けて料金上昇が避けられなかったとしても、本来なら各社は効率化やサービス向上によって競争し、その負担に対応すべきだった。
ところが価格を横並びで引き上げたのであれば、競争の放棄によって利益の安定を図ったとの疑念は拭えない。
派遣という制度は、労働と資本の間に介在することで成立する。その存在意義は仲介機能にあるのであって、市場支配力にあるのではない。人手不足という不安が深まるなかで、労働力の流通を担う企業が協調して価格を決めるなら、それは労働市場の公共性を損なう行為である。
問われているのはカルテルの有無だけではない。賃上げは本来、労働者の生活改善と需要拡大につながる社会的な循環である。だが、その流れが中間事業者による価格協調の温床となるなら、賃上げは豊かさへの道ではなく、利潤配分をめぐる収奪へと変質する。
賃上げという社会的な要請が、働く人々の生活改善のためであったのか、それとも仲介者の利潤拡大へと吸収されたのか。その境界線を明らかにすることこそ、公取委に課せられた責務であろう。市場の信頼は、まさにその一点に懸かっている。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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