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求む「3現主義」を徹底できる現場人材…JINS常務とマクニカCIOが語る

メガネブランド「JINS」を展開するジンズホールディングスが、顧客体験を軸にしたDXを推進している。(中略)生成AI活用が広がる中、同社は「顧客がハッピーになるか」を基準に投資判断を行う。DX戦略とAI時代の最高情報責任者(CIO)の役割について、ジンズホールディングス常務執行役員の松田真一郎氏と半導体商社マクニカのCIO・安藤啓吾氏が語り合った。
(中略)
安藤 ITスキルをある程度備えた人を選んだんですか。
松田 いえ、技術の詳細な知識は必要ないと思っています。採用面接では「今こうしてオンライン会議ができている仕組みを、自分の知っている範囲で説明してください」という質問をしました。現場で課題に直面したとき、なぜそうなるのかを構造的に考えられるかどうかを確かめるためです。
 多くのデジタルサービスや社内システムは、良かれと思って導入されます。ところが、ユーザー側からすると非常に使いにくいということがある。その不満を構造的に捉えて技術部門に伝えられる人、すなわち「3現主義」(現場・現物・現実を直接確認)を徹底でき、他人に説明できる人がいい。AIが普及すれば技術的な知識がなくても課題を理解・説明できるようになるので、こうした現場出身の人材採用は増やしていきたいですね。
 とはいえ、優秀な人材は放っておいても育ちませんから人材育成は大事です。名門スポーツ校がメンバーの入れ替わりがあっても強いのは、育成の仕組みが継承されているから。
(Japan Innovation Review 5月27日)

松田氏の発言で注目すべきは、「ITスキルよりも構造的に考える力を問う」という逆説である。生成AIの時代、多くの企業は技術者を増やすことに奔走する。しかし現実には、DXの失敗要因の多くは技術不足ではなく、現場とシステムの断絶にある。情報システムの国際的な調査でも、プロジェクトの成否を分ける最大の要因は、利用者の要求理解と関係者間の意思疎通だと繰り返し指摘されてきた。
JINSが重視する「顧客がハッピーになるか」という基準は、一見すると平凡な標語に見える。だが、その平凡さこそが難しい。企業のDXはしばしば効率化やコスト削減の数字に回収され、顧客は後景へ退く。便利さを掲げながら、利用者に新たな不便を強いるシステムは数知れない。松田氏のいう「3現主義」は、その傲慢さへの警戒として読むべきだろう。
さらに興味深いのは、AIを専門知識の代替ではなく、現場理解を増幅する道具として位置づけている点である。AIは知識の格差を縮めるが、現実との距離までは縮めてくれない。画面の向こうで生成された答えが正しく見えるほど、人は現場を見なくなる危険を抱える。だからこそ、オンライン会議の仕組みを自分の言葉で説明できる人材を求める姿勢には意味がある。
名門スポーツ校の強さを育成の継承に求めた比喩も示唆的だ。優秀な個人への依存ではなく、学習する組織をつくることは、AI時代のCIOに課された仕事の本質でもある。技術を語る者ではなく、人と現実の間に橋を架ける役割が、いま改めて問われている。
DXの成否もまた、技術の新しさではなく、現場の実感や顧客の体験を見失わない組織であり続けられるかに懸かっている。生成AIが普及するほど、人間が現実に向き合う力の価値はむしろ高まる。その逆説を理解できる企業だけが、次の時代の競争力を手にするのではないだろうか。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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