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「ジョブ型」の副作用を乗り越えるには?ENEOSが模索する人事制度

ENEOSグループが人事制度改革を次の段階へと進めている。世界的な脱炭素の潮流や国内需要の縮小を背景に、同社は2022年、管理職層にジョブ型人事制度という「劇薬」を導入した。運用から3年半がたち、現場の納得感や人材配置のスピードといった課題と向き合いながら、「ジョブ型人事制度2.0」へと進化を図る。制度改定の狙いと現在地を、常務執行役員 CHRO(最高人事責任者)の布野敦子氏に聞いた。
(中略)
──2025年からは「ジョブ型人事制度2.0」と銘打って、ジョブグレード制度の見直しを進めていると聞きました。その狙いは何ですか。
布野 見直しの方向性は、「ポスト=椅子」の定義だけでなく、そこで働く「人=能力」にも光を当てることです。これには、「現場の納得感を高める」「経営のスピードを上げる」という2つの狙いがあります。
まず前者ですが、ポストの価値だけで給与を一律(シングルレート)にするのではなく、配置された個人の能力やスキル・経験が、そのポストが定める要件を満たしているかどうかの「充足度」を考慮した設計にすることを検討しています。これにより、人の能力に見合った処遇が可能になり、同時に社員の納得感を高めることができます。
 そして後者は、より経営的な視点です。刻一刻と変化する環境に対応してダイナミックなチーム編成を行うには、「椅子」を定義するだけでは不十分でした。「社内のどこに、どのようなスキルを持った人材がいるのか」という「人」の情報がなければ、最適なポートフォリオを素早く形成することができません。
(Japan Innovation Review 5月21日)

産業の根幹を担う組織が、みずからの人事制度を「2.0」と名付けて刷新するとき、そこにはたんなる制度論を超えた、より深い時代の要請が潜んでいる。変化を強いられているのは技術や市場だけではない。組織のなかで働く人間そのものの位置づけが、いま根底から問い直されているのだ。
その背景は、エネルギー産業を取り巻く地殻変動である。IEAの試算によれば、2050年ネットゼロ実現のシナリオ下で、化石燃料関連の雇用は2030年代に大幅な再編を余儀なくされる。国内の石油需要は、21年度比で30年度までに約15%減少すると経済産業省は見通す。
こうした不可逆の潮流のなかで、「椅子」を定義することで秩序を保ってきた従来のジョブ型制度が、固有の限界に突き当たったのは必然であった。構造の硬直が、変化の速度に追いつけなくなったのである。
布野敦子CHROが語る「2.0」の核心は、ポストという構造物に人という有機体を嵌め込む発想からの離脱にある。充足度という概念の導入は、個の能力を可視化し、組織を静的な椅子の集合から動的な能力のポートフォリオへと変容させる試みだ。スキルの所在を見出す問いは、同時に「この人間は何者か」という問いに他ならない。人材マネジメントが、管理から認識へと重心を移す瞬間である。そして認識の精度が、経営判断のスピードを左右するという作用を、この制度改革は内包している。
かつて日本型経営は「人」への投資を強みとしながら、皮肉にも個を埋没させることで成立していた。ジョブ型2.0が照らし出そうとしているのは、その長い曖昧さの残滓から解放された、輪郭の鮮明な個の姿である。制度の深化とは、つまるところ人間への眼差しの深化であろう。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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