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実質賃金が3カ月連続プラス 21年以来、伸び率は縮小

厚生労働省が8日公表した3月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、物価変動を考慮した1人当たりの実質賃金は、前年同月に比べ1.0%増え、3カ月連続でプラスになった。増加が3カ月以上続くのは2021年以来(2~8月の7カ月連続)となる。ただ、増加率で見れば今年2月の2.0%から縮小した。  
基本給や家族手当などの所定内給与が大きく増え、物価の伸びを上回った。中東情勢に伴う物価高騰が懸念されており、同省の担当者は「現時点で大きな影響はないようだが、引き続き注視したい」としている。  
名目賃金に当たる現金給与総額は31万7254円で2.7%増。プラスとなるのは51カ月連続だ。現金給与総額の内訳は、所定内給与が27万1313円で3.2%増。3カ月続けて3%以上の伸びを記録したことになり、33年5カ月ぶりだという。残業代などの所定外給与は1.9%増の2万204円だった。
 統計に用いる消費者物価指数は、電気・ガス料金の政府補助もあり、1.6%増にとどまった。
(共同通信 5月8日)

 3月の実質賃金が前年同月比1.0%増、3カ月連続のプラスという報告を、政府与党は喧伝したがるだろう。しかし数字の表面を撫でるだけでは、その裏に潜む構造的な脆弱性を見落とす。
まず直視すべきは、増加率の縮小である。2月の2.0%から1.0%へと半減した事実は、上昇基調の「勢い」が鈍化していることを静かに告げている。3カ月連続プラスという見出しに乗せられず、このトレンドの減衰こそが問われるべきだろう。
所定内給与の3.2%増、3カ月連続3%超という数字は、確かに33年5カ月ぶりの記録であり、春闘の成果が賃金表に刻まれた証左ではある。だが見過ごしてはならないのは、この記録が比較対象として選ばれた1990年代初頭との間に、バブル崩壊以降の失われた30年を挟んでいるという歴史的文脈だ。要するに、長い停滞の後にようやく平場に戻りつつあるという評価が妥当である。
さらに看過できないのは、実質賃金のプラスを支えた要因のひとつが、電気・ガス料金への政府補助による物価指数の抑制にある点だ。消費者物価指数を1.6%増に押しとどめた補助金が剥落した瞬間、この実質プラスは瞬く間に蒸発しかねない。数字の土台が政策的な下駄の上に乗っている以上、その持続性には疑念が残る。
中東情勢に起因する物価高騰リスクを「引き続き注視」するという担当者の言葉は、慎重さの表明であると同時に、楽観論への暗黙の留保でもある。実質賃金の回復が真に国民生活の改善に結実するか否かは、補助金依存から脱した構造的な賃上げと物価安定の両立にかかっている。3カ月の連続プラスは、ようやく灯った小さな火種に過ぎない。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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