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日本企業の89%がスキル不足を実感、中堅層採用が最大課題に

人材紹介会社ヘイズ・スペシャリスト・リクルートメント・ジャパンが『2026年ヘイズアジア給与ガイド』で行なった調査で、日本企業の89%が過去12か月間にスキル不足を経験していることが分かった。
 人材確保が特に難しいポジション(複数回答)として、一般社員を中心とした中堅層を挙げた企業が55%と最も多く、次いでマネージャー・ディレクターレベル(48%)、経営層(16%)となった。
 日本では、ヒューマンスキルおよび汎用的スキルに対する需要が引き続き高い状況にある。最も必要とされているソフトスキルは「コミュニケーション力・対人スキル」を挙げた企業が48%と最も多く、次いで「問題解決力」(29%)、「学習・リスキリングへの適応力」(27%)。スキル不足の主な原因は「研修・能力開発の不足」が41%と最も多く、次いで「他社との人材獲得競争」(40%)、「報酬水準」(30%)となった。
こうしたスキルに対する需要の高まりは、限られた即戦力人材を巡る競争を激化させている。Grant Torrensマネージング・ディレクターは「専門的な知識に加え、課題解決力や高いコミュニケーション力が求められるが、こうした人材は依然として限られている」と指摘する。
(ヘイズ・ジャパン作成ニュースリリースを要約 5月1日)

ヘイズ・スペシャリスト・リクルートメントの調査が示す数字は、たんなる労働市場の統計ではない。日本企業の89%がスキル不足を経験しているという現状は、高度成長を支えた「企業が人を育てる」という神話の、取り返しのつかない崩壊を静かに告げている。
問題の核心は、需要の内実にある。最も不足していると回答された「コミュニケーション力・対人スキル」(48%)や「問題解決力」(29%)は、いずれも本来、教育制度と企業内訓練の長年の蓄積によって培われるべきものだった。それがいまや「即戦力として市場から調達せよ」という命題に転化している。これは敗北ではないのか。
スキル不足の主因として「研修・能力開発の不足」(41%)が筆頭に挙がる事実は、企業自身がその責任を自認していることを示す。バブル崩壊後、日本企業は人材への長期投資を切り捨て、OJTという名の放任と外部調達への依存を深めた。経済産業省の調査によれば、日本企業の人材投資(OJT除く)はGDP比0.1%程度に過ぎず、米国 (2.08%)やフランス(1.78%)など先進国に比べて顕著に低い水準にある。撒かなかった種が実らないのは自明の理である。
さらに、採用が困難の対象が中堅層に集中している意味は重い。組織の腰骨にあたる人材の空洞化は、失われた30年の間に積み上げられた人材育成の怠慢が生んだ、ミッシング・ジェネレーションの現われに他ならない。
Grant Torrens氏の「こうした人材は依然として限られている」という言葉の背後には諦念が漂うが、諦念は処方箋にはならない。求められているのは、リスキリング投資の大幅な拡充と、報酬体系の抜本的な見直しである。人材を「採るもの」ではなく「育てるもの」として再定義する覚悟なくして、この構造的な欠乏は永続するだろう。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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