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権限委譲が生んだ「分断」の打開策、大激論して決めたこと

事業の拡大につれて権限委譲を進めたはずが、各部署が「マネージャーの城」と化し、組織風土が崩壊する――。企業はどうすればこの罠(わな)から抜け出すことができるのか。その一つの解として「管理職の廃止」を決めたのが、後払いBNPL(Buy Now, Pay Later)決済サービスで国内BNPL市場の約4割を握るネットプロテクションズだ。同社はどのように組織づくりを進め、いかにして管理職に頼らない仕組みを構築したのか――。(中略)社長の柴田紳氏に話を聞いた。
(中略)
柴田 2007年に組織づくりを本格的に始めてから2012年頃まで、社内では常に何らかの問題が起きている状態が続きました。
それぞれの部署がやりやすいように、私からは権限委譲を推し進めていきました。一方で各マネージャーからその先には権限移譲がなされず、部署毎にまるで別会社のように反目しあう、といった状態になりました。その度に私が介入する必要があり、しばしば炎上していました。
 それでも組織を拡大しなければ、せっかく成長軌道に乗った事業が止まってしまいます。そこで改めて組織の課題を整理したとき、2007年にすでに構築していた全社ミッションと個人価値観だけでは足りず、組織としての判断軸が絶対に必要だと気付きました。会社として何を大切にし、どこを目指し、どんな判断基準を持つのか、それが明文化されていなかったのです。
(Japan Innovation Review 4月7日)

事業の拡大がもたらす分断の影は、企業という器の底に沈む澱(おり)のように、静かに組織を蝕んでいく。しかしネットプロテクションズは、その澱を見て見ぬふりをせず、むしろ正面から凝視し、組織の骨格そのものを組み替えるという大胆な試みに踏み出した。権限委譲が各部署を「城」と化し、反目と停滞を生んだという柴田紳氏の証言は、旧来型マネジメントの限界を象徴している。
同社が選んだ解は、管理職という構造の廃止である。2012年に全管理職を撤廃し、役職ではなく役割を基軸とする自律分散型組織へ移行した事実は、たんなる制度変更ではなく、企業の代謝を促す深い意志の表れだ。 
その仕組みは、上下関係に依存しない意思決定を支える人事評価制度「Natura」である。「Natura」の特徴は、第一に、マネージャーを撤廃して、権限は分散、成長は加速、全員が主役のフラット組織。第二に、職務ごとの基準で競うのではなく、統合された能力基準での評価。第三に、能力・姿勢を多面的に評価する360度評価である。
透明性と対話を基盤にしたこの仕組みは「相互の成長支援」を目的に、心理的安全性と生産性を両立させている。個の成熟が組織の成熟を導くという思想をベースに、管理ではなく信頼を軸に組織を再構築してきたのである。
誰しも命令ではなく、内なる必然に突き動かされるときにこそ創造性を発揮する。ネットプロテクションズの挑戦は、その確信を実証する営みであり、企業の未来に向けたひとつの灯火になった。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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