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2月の実質賃金2カ月連続プラス 1.9%増、賃上げ波及

厚生労働省が8日公表した2月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、物価変動を考慮した1人当たりの実質賃金は前年同月と比べ1.9%増えた。プラスは2カ月連続。昨年の春闘の影響で賃上げが波及し、基本給などの所定内給与が3.3%増で33年8カ月ぶりの高い伸びとなった。物価の上昇が鈍化したこともプラスの要因となった。  
厚労省の担当者は「イラン情勢による物価高騰の影響が出るとすれば3月以降で、実質賃金の動向は見通せない」との認識を示した。高水準の賃上げ回答が続く今春闘の結果が反映されるのも4月以降で、物価との兼ね合いが注視される。  
名目賃金に当たる現金給与総額は3.3%増の29万8341円で、50カ月連続のプラス。統計に用いる消費者物価指数は、昨年後半に2、3%台の上昇で推移していたが、2月は1.4%にとどまり、実質賃金はプラスとなった。  
現金給与総額の内訳は、所定内給与が26万9154円。残業代などの所定外給与は3.3%増の2万134円、ボーナスなどは7.1%増の9053円だった。
(共同通信 4月8日)

実質賃金が前年同月比1.9%増――数字だけ見れば明るい見出しである。だが、この光はどこまでが「春闘効果」で、どこからが一時的な「物価の息切れ」なのか。厚生労働省「毎月勤労統計調査2026年2月分」と、それを伝える各紙報道が示しているのは、日本経済がようやく長い冬の終わりを「予感している」にすぎないという、心許ない現実である。
所定内給与は3.3%増と33年8カ月ぶりの伸びを記録した。これは、昨年春闘の賃上げが大企業の枠を越え、賃金構造そのものに波紋を広げつつある証左だろう。しかし同時に、実質賃金の改善は、消費者物価指数の上昇率が1.4%まで鈍化したという「外部環境」に大きく依存している。イラン情勢次第でエネルギー価格が再び跳ねれば、このかりそめのプラスは、たやすく帳消しになりかねない。
問題は、日本企業がこの賃上げを「コスト」としてのみ認識するのか、それとも「構造転換の起点」として引き受けるのか、という一点に収れんする。人件費を削り、内部留保を積み上げることで延命してきたビジネスモデルは、すでに社会の信任を失いつつある。賃上げを、付加価値の創出と生産性向上へとつなげられなければ、今回の統計は、たんなる景気の「揺り戻し」の記録として歴史の片隅に沈むだろう。
春闘の高水準回答が本格的に統計に現われるのは4月以降だという。そこで問われるのは、賃金と物価の「好循環」などという便利なスローガンではない。企業がビジネスをどこまで社会に開き、どこまでリスクを引き受ける覚悟があるのか――その倫理と構想力である。数字は、いつも後から、その覚悟の有無を冷酷に証言するだけだ。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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