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三井化学が10年の試行錯誤から見出したキータレントマネジメント 

世界15カ国・地域に拠点を擁し海外売上高比率が50%を超える三井化学では、2016年からグローバルリーダー人材育成を目指すキータレントマネジメントに注力してきた。三井化学本体と関係会社の人材育成施策を連動させるなどグループ全体としての人材育成を推進し、2025年度からは新たな展開に着手している。正解を見いだすのが困難な人材戦略において、三井化学ではどんな試行錯誤をし、成果につなげているのか。三井化学グローバル人材部長の牧野元太氏と、『日本企業のタレントマネジメント』の著者でタレントマネジメント研究の第一人者である法政大学の石山恒貴氏との対談で、その実態を掘り下げる。
(中略)
牧野 当社のキータレントマネジメントの目的は、キータレント(将来の本社部レベル長)候補と、さらに上の経営者候補となる人材の早期選抜と戦略的育成でした。二段階の人材育成委員会を設置し、キータレント候補は「部門別人材育成委員会」が、経営者候補は「全社人材育成委員会」がそれぞれ担う体制で実施してきました。
 しかし、10年ほどを経て、「そもそも日本以外の地域人材が対象となりにくい」「本社による人材の把握に限界がある」「地域人材の戦略的育成・配置の選択肢が少ない」といったグローバル人材育成上の課題が浮き彫りになってきたのです。
石山 課題を踏まえてどう変えたのでしょうか。
牧野 まず、各地域の人材と重要ポジションをより明確に可視化する必要がありました。そのために、地域の関係会社のサクセッションプランに着目しました。
(Japan Innovation Review 4月6日)

三井化学が進めてきたキータレントマネジメントは、たんなる制度設計の巧拙ではなく、企業が自らの存在領域をどこに見出すのかという根源的な問いに接続しているようだ。グローバル展開が深化し、海外売上が半分を超える段階に至れば、もはや本社が全体を統御するという旧来の構図は自明ではなくなる。
人材の流れもまた、製品や資本と同じく国境を越えて循環することを前提に再構築されねばならない。
三井化学が直面した「日本以外の地域人材が対象となりにくい」「本社による把握の限界」といった問題は、制度の不備というより、企業の成長がもたらす必然的な摩擦である。むしろ注目すべきは、その摩擦を放置せず、地域ごとのサクセッションプランに光を当て、重要ポジションと人材の可視化を図ろうとした姿勢だ。
そこには、中央集権的な管理から、地域の自律性を尊重しつつ全体最適を志向する方向への転換が読み取れる。
タレントマネジメントは、しばしば「選抜」や「育成」といった語の響きによって、管理の技法としてのみ理解されがちである。しかし三井化学の試行錯誤は、企業が多様な文化圏に根を張りながら、どのようにして共通の未来像を描くのかという、より大きな物語の一部を成している。
地域の文脈を踏まえた人材の把握と配置は、たんに効率を高めるためではなく、企業が世界の多様な現実を受け止め、それらを結び合わせるための基盤となる。この取り組みはまだ途上にあるだろう。しかしリスクに対峙し、制度そのものを問い直す姿勢こそが、グローバル企業としての成熟を支える。
タレントマネジメントを通じて、三井化学がどのような組織像を描き出していくのか、その行方は静かだが、確かな重みをもっている。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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