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老害の弊を説きながら出家後も京セラ取締役を続けた稲盛和夫の真意

稲盛氏は、強大な影響力を持ちながらも「引き際」を見誤ることを何より恐れ、通例より若くして経営の第一線から退いた。老害を戒め、自らをも律した稀有な経営者の姿に見る、真に健全なリーダーシップとは?
(中略)
稲盛は1997年6月27日付で京セラ会長を退き、名誉会長に就任した。また9月には、京都八幡にある臨済宗妙心寺派円福寺で得度を果たした。
ところが、京セラ取締役は継続し、重要案件の相談は受けるとしたことから、一部報道で「院政が続きそうだ」と揶揄(やゆ)された。
 実際に稲盛の影響力は絶大で、経営の第一線を離れた後も、京セラの後継者たちにとって「重し」になっていた。本人が望まずとも、存在感の大きさから、後継者たちは稲盛に大きなプレッシャーを感じていた。そのため、重要案件は事前に相談し、結果も必ず稲盛に報告した。その際、厳しい指導を受けることもあったようだ。
ときに自らの哲学や信念に照らし、強い指導を行ったことがあるかもしれない。しかし、それは支配者の横暴ではない。独裁者の私欲や傲慢でもなかった。自らがつくり上げてきた企業への限りない愛情の発露であり、従業員の幸福追求のため、企業を万全の状態にしておかなければならないという責任感がなせる業ではなかったか。
(Japan Innovation Review 1月9日)

 社長の退任年齢はそれぞれの事情によるので正解はないが、目安の年齢はあるだろう。帝国データバンクの調査によると、2024年時点で、社長が交代する際の年齢は平均68.6歳となり、前年(68.7歳)からほぼ横ばいだった。社長交代後の新社長の年齢は52.7歳で、平均して15.9歳若返った。
 多くの社長は70歳を迎える前に世代交代の手を打っているが、カリスマ創業社長はそうはいかない。経営ノウハウも人脈も本人に一元化され、後任候補者と差がありすぎて退任できないのである。本人が体力の低下を自覚しても、自己否定につながる老害の自覚は、ほとんどないようだ。
それだけに稲盛和夫氏が月刊『文藝春秋』1996年12月号に執筆した論考は卓見である。
1932年生まれの稲盛氏は当時64歳である。論考の一部を紹介しよう。
<歳を取ると解脱というか、枯れる方向へ行く人もいるかとは思うが、往々にして欲ボケになってしまう傾向が強い。実際、私の周囲でも、引き際を見失ってしまった例をこれまで嫌というほど垣間見てきた。歳を取るとともに『俺が、俺が』という自我が強くなっていくのである。
 若いときにはまだその自我を抑える勇気が備わっているように思う。しかし、肉体の衰えとともに自我を抑える力もまた失われていくのではあるまいか。そうなってしまっては時すでに遅しである>
 社長退任後に院政を敷いているかどうか。それは役員人事に関与しているかどうかである。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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