2025/10/14
人的資本経営の先進事例として、よく名前が挙がる企業の一つが丸井グループだ。社員の主体性・自律性を促す「手挙げの文化」や、個人の評価から組織の業績を切り離した人事評価制度など、抜本的な人事制度改革を10年以上も前から推進してきた。丸井グループはなぜこれほど大規模な人事制度改革を断行し、定着させることができたのか。2013年に人事部長に就任以来、一貫して同社の人事制度改革をリードしてきた専務執行役員 最高人事責任者(CHRO)の石井友夫氏に聞いた。
(中略)
石井 イノベーションを創出し続ける企業になるためには、社員の主体性・自律性がエンジンとして不可欠です。この主体性・自律性を醸成するために、会社からの指示ではなく、自ら手を挙げて社内プロジェクトや学びの場に参加したり、キャリアを構築したりする仕組みを導入していきました。
その一例として、2013年に導入した「グループ間職種変更異動」があります。当社は小売、フィンテック、IT、物流、住宅関連、証券、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)など多様な事業会社を持っています。そうした、社をまたいだ職種変更異動を、社員の手挙げに基づいて実現できる制度です。
同じ職場で長年働いていると、環境や業務に慣れることでマンネリ感が生まれ、成長を阻害する可能性があります。そこで、定期的に「職種変更」という負荷と「異動」という刺激を与えることで一人一人の成長を促し、多様な事業を経験した個人からなるチームを形成することで組織の固定概念を崩して、イノベーション創出につなげるのがこの制度の狙いです。
((Japan Innovation Review 10月6日)
丸井グループの社員向け政策は先進的である。このインタビューで取り上げられた制度のほかにも全社員参加型の「『好き』を応援するコンクール」を開いている。
「世界に存在するあらゆる二項対立を乗り越え、すべての人が「しあわせ」を感じられるインクルーシブで豊かな社会の実現」という丸井グループの世界観をまとめた「ビジョン2050」の達成に向けたテーマとして「将来世代の未来を共に創る」「一人ひとりの『好き』が駆動する経済を創る」「働く人の『フロー』を生み出す社会を創る」を掲げている。
「『好き』を応援するコンクール」は2024年3月から開き、社員の「好き」をビジネスに活かす企画の拡大につなげている。25年2月には第2回大会が開かれ、インターン生を含む79名の社員から選ばれた10組18名のファイナリストが事業企画のプレゼンテーションを行った。
優秀賞を受賞した事業企画は「自然や生き物の保全につながるエポスカードの発行やイベント」「大量消費・廃棄から脱する長く大切に持てるカスタマイズ推しぬいぐるみの制作と修理サービス」「動物園・水族館の動物の食事を贈れるアプリと連携し、売上の一部を動物の食事代として寄付が可能なエポスカードの発行と、食事を贈れる提携動物園・水族館の拡大」。どの提案も事業化に向けて検討が進んでいるという。
丸井グループは「好きこそがイノベーションの源泉」と考え、一人ひとりの感情や価値観が原動力となって動く経済の領域「『好き』が駆動する経済」として定め、市場開拓に向けて「『好き』を応援するビジネス」を推進している。これまでにもコラボレーションカードの発行をはじめ、マルイ・モディまたは外部施設でのイベント開催や、ECでのオリジナルグッズ販売などへと実を結んだ。
小売業の社員も職場を離れれば消費者である。消費者のニーズを目の前の社員から引き出している。
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