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「不知の自覚」ソクラテス哲学から学ぶ心理的安全性の本質とは?

心理的安全性が高い組織をつくり上げるためには、全てのメンバーが「不知の自覚」を持つことが必要なのである。
 心理的安全性が低いと、不正が隠蔽(いんぺい)されて長い期間がたってから取り返しがつかない不祥事が発覚することが多い。エドモンドソンは著書『恐れのない組織』で、フォルクスワーゲン(以下、VW)のNOx排出テスト不正問題を取り上げている。
 この問題でVWは販売を停止、時価総額の3分の1が失われ、「私は不正を一切知らなかった」と言ったCEOは辞職した。しかしエドモンドソンは「そのCEOが原因」と指摘する。CEOは悪い報告をすると大声で罵倒する人物で、社員を恐怖で支配する文化を創り出し、組織のパフォーマンスを上げていた。確かに業績は一時的には良くなるが、不正は隠され、個人の創造性や情熱は消滅する。心理的安全性が低かったVWでは、不正は起こるべくして起きたのだ。本来VWのトップも「不知の自覚」を頭の隅に置き、謙虚に社員が抱える問題に耳を傾けるべきだったのである。
 大事なことはバイアスを外すことだ。人は人間である以上、必ずバイアスがある。人は「不知の自覚」を頭の隅に置いた上で、他人と謙虚に対話をすれば、自分のバイアスに気付くことができる。
(Japan Innovation Review 11月11日)

この記事はマーケティング戦略コンサルタント・永井孝尚氏が、西洋哲学からエンジニアリングまで幅広い分野の教養について、ビジネスと関連付けて解説する連載第1回の抜粋である。
会社員も公務員もリスクをともなう業務を担うとき、リスク管理よりも人事評価への影響を念頭に置いて行動する人は、けっして少なくないだろう。加点よりも減点に目が向きがちで、人事評価制度のもとで働く勤め人である以上、この心理に傾いてしまうのはやむを得ない。
リスクを乗り超えて大きな成果を達成しようと果敢に挑む人もいるが、このタイプを増やして組織に活力をもたらす目的で人事評価に導入されたのがプロセス評価である。しかし、それだけでは十分でなく、心理的安全性を担保しないと、多くのメンバーは保身から解き放たれない。
心理的安全性は「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」の4つの因子で構成される。誤解されやすいが、ぬるま湯ではない。
10年前にさかのぼるが、元米グーグル副社長兼日本法人社長・グーグル日本法人名誉会長の村上憲郎氏を取材したときに、人事評価の要諦を教えてもらった。以下である。
「測定可能な目標と評価基準を明確に設定して、信賞必罰の人事を実行すればよいの。まず上司と同僚と部下の意見を取り入れてチームとして本人の四半期目標を策定し、未達成になったらチームで次の四半期のリカバリープランを協議し合う。ふたたび未達成なら人事部が関与して適正と思える業務に異動してもらい、それでも成果が出なければ再就職の支援をして、合意の上で退職してもらうしかない」
 リカバリープランの協議によって雇用リスクを最小化して、社員の委縮を防ぐ人事である。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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