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「後継者候補準備率」211% 三井化学のサクセッションプラン

上場企業には人的資本に関する情報開示が求められるようになった。しかし「人的資本経営」は、単に「人を大事にする経営」としばしば取り違えられている。本稿では『5000の事例から導き出した「人的資本経営大全」』(田中弦著/東洋経済新報社)から一部を抜粋・再編集。成功企業の事例を元に、企業価値を高める人的資本経営のポイントを考える。
 三井化学は、将来のトップ人材を見据えた独自のキータレントマネジメントを導入し、着実に経営者候補を準備している。その仕組みとは?
  サクセッションプラン(=後継者育成計画)に工夫をこらしている好例としてあげたいのが、三井化学株式会社です。
 同社は 「キータレントマネジメント」 という施策を行っています。キータレント、つまり 「将来の経営者となり得るリーダー候補」 たち(グループ社員全体の約2%にあたる)を特別に育成していくというのです。
 また同社は、戦略を遂行していくうえで外せない「戦略重要ポジション」や、さらなる選抜を受けた経営者候補たち(グループ社員全体のおよそ0.5%にあたる)を育てることを目的とした「育成ポジション」を120程度定め、各ポジションの後継者を個別具体的に育てています。
(中略)
 先に述べたおのおのの「戦略重要ポジション」には 「後継者候補準備率」というKPIが設けられています。
(Japan Innovation Review 10月24日)

三井化学が経営者候補に求める人材要件は①経営ビジョンの実現に向け、当社の経営を適確、公正に執行することができる知識および経験を有していること②高い見識や幅広い視野、倫理観、公正性および誠実性を有していること。
将来の経営者になり得るリーダー候補であるキータレントマネジメントを育成する取り組みは、2024年度にキータレントマネジメントコードを制定して、VISION 2030から導き出された職務遂行に求められる「5つの成果(挑戦)」を定義し、育成計画への活用を開始した。また、各職務(CxO・事業本部長・機能本部長)に必要な経験を優先的に付与し、めざす職務の方向性に応じた育成を加速した。さらに経営者候補の多様化に向け、女性・外国籍社員の育成施策としてメンター制度の実施を決定した。
つづいて25年度には、若手層からの早期選抜の強化を予定し、早期から将来的な経営者候補として、育成計画の議論、アセスメントの実施や研修機会の提供を行なう。さらに女性・外国籍社員の育成施策としてのメンター制度の運用を開始する。
そのうえで、三井化学本体と国内外関係会社のサクセッションプランと、キータレントマネジメントの連携をさらに強化。タフアサイメントなど育成に資するポジションへの積極的な人材配置を促進する。
 取り組みの成果は22年4月に執行役員に女性、外国籍、キャリア採用者が加わり、25年4月には女性、キャリア採用者がそれぞれ1名ずつ執行役員に就任した。この人事によって、執行役員に占める多様な人材が5名にまで増加した。
 サクセッションプランのモデルケースとして着目したい。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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