Talk Genius

人と会社と組織を考えるニュースマガジン

増えるシニア起業、「引退には早い」と挑戦 売り上げより大切なことは

ここ数年で増えているシニア起業。2024年に設立された法人の中で、代表者が60代以上の割合は18.6%と2000年以降で過去最高だった。人生100年時代が到来し、多くの人が65歳までに迎える定年後の選択肢として選ばれるようになってきている。起業の魅力や気を付けたいポイントは。新たな事業を始めたシニアや専門家に話を聞いた。
 東京都中央区のレンタルオフィス。7月上旬、個室の一つを訪ねると、KFトレーディングカンパニーの福島賢造代表(76)がにこやかに出迎えてくれた。40年間勤めた三井物産を63歳で定年退職した後、「体は元気だし、引退するにはまだ早い」と2013年に64歳で起業。同社で長年担当していた化学品の貿易事業をしている。
 福島さんが扱うのは、大手企業が避ける小規模な20トンクラスの取り引き。現在は肥料の原料といった化学品を台湾や中国などから仕入れ、国内の5社に販売している。「会社員時代にいろいろな顧客とやりとりする中で『少量だけ欲しい』といった大手では対応しにくい要望があることに気付いていました。そうした分野なら個人でも事業ができるかもしれないと思ったんです」と振り返る。  
週5日の平日、午前10時から午後6時までレンタルオフィスで勤務し、取引先とのメールや商談を1人でこなす。
(時事通信 8月31日)

 帝国データバンクの調査によると、2024年に新設された法人の代表者の平均年齢は48.4歳だった。年代別にみると、50代(25.2%)は20年ぶりの高水準となり、60代と70代はともに2000年以降で最高の新設数だった。
シニア起業はリスクを取って成長拡大に向かうよりも、安全第一を優先するのが王道だろう。やり直しの効かない年齢だから事業資金の借り入れは避け、老後資金に支障のない範囲で自己資金を費やして取り組むことが現実的だ。
 当然、取引先候補が期待してくるのはベテランのノウハウである。これまで培ったノウハウをそのまま投入できる分野でないと、期待外れという評価を下されてしまい、思うように売り上げが立たない。
さらに現職時代に利用できた会社の看板は通用せず、元の肩書をアピールすれば「過去の人」と退かれかねない。自分は現役と思っていても、還暦前後の退職者に対して相手はそうは見ていないものだ。培った人脈にしても、相手が同年代なら自分と同様に現役を退いている場合が多く、ビジネスには有効に働きにくい。お互いに第一線ではないのだ。
――これらのことは誰でもわかり切っていると思うが、起業の当事者になった途端、現職時代の肩書や実績をもってすれば今後も活躍できると妄信しがちなのである。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

この著者の記事を全て見る

Talk Geniusとは-

ヘッドハンティング会社のジーニアスが提供する人と会社と組織を考えるニュースマガジンです。