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「どんなことがあっても首にしない」 生産性も売上も利益も上がった中小企業 

医療機器部品製造などの西軽精機(長野県佐久市)が、福利厚生の充実や賃上げで社員が働きやすい職場づくりに力を入れている。3月には従業員や取引先などを大切にしている企業を表彰する「『第15回日本でいちばん大切にしたい会社』大賞」で審査委員会特別賞を受賞した。取り組みに伴って生産性が向上し、売り上げや利益の拡大につながっている。
 社員30人。チタンなどを加工して、医療機器や産業用機械などに使われる部品を作っている。上原大輔社長は2008年のリーマン・ショック直後に同賞の主催団体の一つ、一般社団法人「人を大切にする経営学会」(東京)の坂本光司会長(元法政大大学院教授)の著書を読み、影響を受けて「人を大切にする経営」を始めた。
 まず社員に約束したのが「どんなことがあっても首にしない(解雇しない)」こと。社員の心理的な安全性を高め、チャレンジできる環境を築こうとした。有休取得100%や残業ゼロといった目標も掲げている。2年前からは社員全員が参加して就業規則を作っており、休暇を取得しやすくするなどの改革を進めている。今年3月には経済産業省の「健康経営優良法人」にも認定された。
(信濃毎日新聞デジタル 6月13日)

坂本光司氏が法政大学教授時代に著した「日本でいちばん大切にしたい会社」はシリーズ化され、ロングセラーになった。坂本氏は同著で会社の役割に5人を幸せにすることを指摘している。
5人とは①社員とその家族②社外社員とその家族③現在顧客と未来顧客④地域社会・地域住民⑤株主・出資者で、①から⑤は優先順である。株主・出資者が5番目に位置付けられているが、アクティビストがこの見解を知れば「会社は株主のもの」という株主資本主義の理を盾に猛然と反発するに違いない。坂本氏が提唱するのは従業員を資本ととらえる人本主義経営だが、アクティビストにとっては「きれいごと」になるのだろう。
「人を大切にする経営学会」が主催する「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の応募資格に、坂本氏の経営学が顕著に現われている。
応募資格は過去5年にわたって「希望退職者の募集や人員整理(リストラ)をしていない」「重大(死亡や重傷)な労働災害を発生させていない」「一方的なコストダウン等理不尽な取引きを強要していない」「障がい者の雇用率は法定雇用率以上である」「下請代金支払遅延等防止法等の法令違反がない」――この6項目全てに該当していること。ROE(自己資本利益率)やPBR(株価純資産倍率)などの指標は対象ではない。
 かつて坂本氏に取材した時に「業績が悪くなったら、すぐにリストラをするという従業員をモノのように扱う経営はいけない」と述べていた。昨今の黒字リストラにはどんな見解をお持ちだろうか。
 

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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