2025/05/16
世界有数のシニア大国ニッポンで「老後」を巡る変化が加速している。団塊の世代全員が75歳以上の後期高齢者となり、「オーバー70歳」人材は540万人に達した。未知なる長寿社会を生き抜く人々の知恵が古い価値観を塗り替える。
厨房機器販売大手のテンポスホールディングスで社会保険などの労務を担当する長崎健雄さん(82)は、シニア社員の研修や安全教育にも携わる。穏やかな人柄で同僚からの信頼は厚く、私生活の悩みを相談されることも多い。
長く務めた教師の仕事を50代後半で辞め、畑違いのことに挑戦しようと2006年に店舗巣に入社した。「周囲との年齢差は気にならない。好奇心がある限り働き続けたい」と話す。
1997年の創業当初、知名度の低さから人材獲得に苦しんだテンポスは2005年に定年を廃止した。現在、主要事業会社は社員の3割強が60歳以上だ。創業者の森下篤史子社長(78)は「60代は青少年。人手不足の時代、経営者は『価値あるジジイ』を見つけ出すことが必要だ」と話す。
(日本経済新聞 5月5日)
就職氷河期世代の年齢は約43歳から約55歳だが、非正規雇用の多いこの世代は年金の免除や未納が多く、老後に悠々自適の生活を送れる人は限られるだろう。かつて話題を呼んだ老後資金2000万円の確保は、この世代にとって夢想にすらならないのではないだろうか。
しかも国民年金は年々目減りし、30年後には現在より3割も目減りするという予測もある。とくに独居高齢者の間に貧困問題が蔓延しかねない。国がもっとも懸念しているのは、年金受給額が些少で生活保護受給者が激増することで、この事態を回避するために国民年金の底上げを検討しているが、底上げが実現できたところで、上げ幅はわずかだろう。
では、氷河期世代の老後生活をカバーする策は何か。有力な策は就労の継続である。社会保障政策に限界がある以上、健康状態が許す範囲で働く以外に生活の手立てはなく、70歳はいうに及ばず、あるいは75歳を過ぎてもなお働くことが当たり前の時代が到来する。
「新約聖書 ―テサロニケの信徒への手紙二」の一節である「働かざる者食うべからず」。
日本国憲法第27条が定める「すべての国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ」――これらの文言が本来の意味を逸脱して、就労促進に乱用されるかもしれない。
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